あの、とき。
私がセタンタから、今の私となり、貴方が私をリンと名づけられた、あのとき。
「ええっと。クーってのが、名前?何て意味なの?」
「・・・いえ。名前、という訳では・・・クーの意味は“犬”です」
「犬?」
あのときの、貴方の戸惑ったような瞳を私は今でも。覚えて、おります。
「主、様」
記憶が募らせる想いは、犬の中心をより硬く、熱く、させ。
「っ、ぁ・・・っんっ」
主の喘ぎを、誘う。
言霊を操る貴方は、誰よりも言葉を大切に、される。
負の意味を持つそれは、負の連鎖しか産まぬと、よく熟知しておられるゆえに。だから。
「私を、犬ではなく、リンと名づけられたのですね」
凛のリン、隣のリンと。
「う、ん。でも、途、中で」
そう、すぐに、貴方はお気づきに、なった。
――― 犬
貴方の育った地では、唯々諾々と雌伏する者や上意下達を為すだけの無能者を示すその語は。
お前の生まれた地では、「美」と「強さ」を具現し、象徴する、それ、だったんだよな。リン。
その、名のとおりの、俺の、強く美しい、猛犬。
柔らかい会話を交わしながら、主従は互いの体をも交わし続ける。
“犬”のカタチで。
愛しい主を守るように背から覆いかぶさり、後ろからその内へと、己を貫かせ。
深く浅く突き上げながら、胸を背を、丁寧すぎるほどの愛撫で奉仕しながら、下僕は主の姿に、
その“美と強さを具現する獣のカタチ”の美しさに見惚れ、ほぅと感嘆のため息をつく。
深く穿てば。
翼のごとき紋様が彩る背中は甘く孤を描き、しなやかに伸ばされた四肢と響きあうように光を放ち。
浅く抜けば。
惑ったように、ふる、としなやかな腰が持ち上がり、ゆらゆらと数度甘く、揺れ。
「っ」
淫らさすら、超越した次元にあるであろう美に、
思わず、コクリと音を立て、動きを止めた崇拝者に、地面を向いていた、視線が上げられて。
赤い、赤い瞳が。誘うように、威嚇するように、上目遣いでちろりと、見上げて。
――― なじる。
「じら、すな。リン」
はやく、
そう命じるまでもなく、犬は己の望むままに、その芸術品へと喰らいついた。
◇◆◇
「あ・・・っ。ぃ、いっ」
「主、様」
腰を掴み、むさぼるように、激しく深く主の奥を穿ちながら。
もっと、声が、悲鳴が欲しくて、下僕は主の両胸の先端を爪の先で掻く。
と、予想通り甘く上がる啼き声と、ひくりと上げられる顎、伸ばされる喉のライン。
結果必然的に目の前にと与えられた、黒い、主の角の先端を、ちろりと犬は舐める。
「・・・っ、ひっ・・・んっ!!」
キュウと締まる内の感触に、やはり、非常な弱点でいらっしゃる、か、と、犬は目を細め。
「ぁ、あっ・・・ゃっ、ぁ、んっ」
過ぎる快楽から、知らず逃れようとする体を捕まえて、拘束して、追い詰める。
「や。ぁっ、ああっ、だ、めっ、だめ、だっ、ぁあぁっあぁ!」
切羽詰った、声。今すぐ、高みに飛んでいきそうな。
壊れるまで、と、主の命を忠実に守ろうとする犬は、達そうとする体を引き止めるため。
右手を主の男根に伸ばし、その根元を強く掴む。
「ぁっ!ああっ・・・ぃ、やっ、・・・やっ!!」
イカせて、と、ねだる肌に口付けて、下僕は、まだです、と残酷に笑む。
貴方が壊れるまで、どこにも、いかせません。私の腕の中以外の、どこにも。
やがて。
延々と続く快楽に、願いどおりに、主は、壊れる。
壊れて、揺れて、真の悪魔に、変わる。
そして悪魔の中の悪魔が紡ぐのは、死を呼ぶ黒い男の、名前。