堕天 5



ブルッ
「寒いのかい、子狐くん?」
問いかけるルイの声も耳に入らず、クズノハはモニタから目を離さない。

きれいで、やさしくて、ちょっとドジで、いつも頭をなでてくれるシュラ様。
クズノハの大好きなシュラ様。

そのシュラは、天使の死骸の山にトン、と飛び乗り、雪のように舞う羽毛の中で、凄絶な笑みを
浮かべている。 そして彼がトン、と地上に降りるたびに増えていく、骸の山と血に染まった風花。

「・・・フフ。美しいだろう。戦うシュラほど美しいモノを私は知らない」
誇らしげにうっとりとシュラの映像を見るルイの影は、ゆうらりと揺れ、形を変えていく。

「キュ!キュキュキュキュ!」
敵将と思われる天使がシュラに切りかかり、クズノハは鳴き声を上げる。

「大丈夫だよ。シュラはあんな刃では傷一つつかない。それは、ウリエルとて、分かっていてやっているのだがね」
「キュ〜?」
「心配かい?もう少しで終わりだから、見ててごらん。 ほら、神の無駄な足掻きが出てきたよ」

モニタには、斃された天使達の血と羽毛が、キラキラと光る何かに変化していく様子が映し出されていた。それはゆっくりとシュラの周りに壁を構成していく。

「・・・これ、を待ってたの?ウリエル」
――― 私は」
「これは檻?」
「はい。闇の悪魔を閉じ込め、動けなくする光の檻、です」
「そう、さすが『神の光』の名を持つ天使様だね、ウリエル」
その不穏な言葉にもシュラは全く動じずにのんびりと言い。

「ま、ここで終わるなら、それもいい、かな」と呟いて。
ゆるりと目を閉じた。


「シュラ!」
「シュラ様!」
光の檻に閉じ込められたシュラに気づき、ロキやクー・フーリン達が叫ぶ。

「あれは何だ、答えろ!」
まだ息がある中級天使をロキが殴りつける。

「ハ、ハハ。あれは闇の悪魔が動けなくなる檻!あそこに人修羅をおびき寄せ、閉じ込めた後に
我が神の雷を落とすのだ!!」
「罠か!」
「初めから、主様を狙って」
「神に逆らう愚か者ども!人修羅の最期を楽しむがいい!!」
ハハハと笑いかけた天使は、その一瞬後、ゲイボルグの串刺しとなった。




「怖くは、ないのですか」
光の檻の中で、裁きの天使がシュラに問いかける。

「何が?」
身体は動かなくとも声は出せるシュラが答える。

「もうすぐ神の雷が来る。分かっておられるのでしょう?」
どこか戸惑ったような声音にシュラが軽く溜息をつく。

「俺に敬語はやめとけば。もう」
「・・・」
「それより、早く行け」
「何を」
意外な言を聞いたかのようにウリエルの眉が寄る。

「お前は当然動けるんだろ」
「・・・ええ」
「俺一人、滅するには必要以上の熱量だ。お前が光の者でも多分、ただでは済まない」
だから、早く行け。

「は、はい。では」
強く促され、檻から出ようとしたウリエルが最後に振り向くと
「さよなら。ウリエル」
どこか寂しげな瞳で、シュラは微笑んでいた。

「・・・っ」
ウリエルが息を呑んだ直後、神の雷はシュラの居る光の檻を直撃した。


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