腕を動かすと、ガチャリと鎖の音が闇に響く。
その反響は、その場の広大さを示し、この後、現れるであろう獣の巨大さを暗示するかのようだ。
シュラの部屋で衛兵達に目隠しをされたウリエルは、どことも分からぬこの場所に連れてこられ、
両手両足を鎖で拘束された。
その鎖のいずれもが一端を固定されているのか、ある程度は動くが、逃げることはできない。
(贄、か)
どこか冷静に、ウリエルは頭の中でその言葉を紡ぐ。
(闇の獣、と言っていたか。魔将軍がこぞってあの畏れようとは)
どのようなモノが現れるのか。
(そういえば、先ほどクー・フーリンとロキに)
連れてこられる途中で、二人に呼び止められ
(何やら、薬を渡されたが)
少しはマシになるだろう、と言って。
(幻覚剤?麻酔の一種?か)
戸惑う衛兵を黙らせてまで。
(・・・余程の痛みか)
だが、自分がどうなるのか、そんなことよりも。
(目隠しをされる前に見た、あの方の痛ましげな瞳だけが)
あのようなお顔をさせてしまったことだけが、今は辛い。
――― やがて、俯くウリエルの耳に、キィと扉が開く音がした。
(な・・・に・・・?)
聞こえてきたのは、想像した獣の咆哮ではなく、静かな溜息とゆっくりと近づく足音。
ウリエルの前で立ち止まってしゃがみこみ、やさしく頬を撫でる指。
撫で下ろした、下げた中指の先でくいと顎を上げさせ、ふわりと笑う気配。
その聞き知った音の、馴染んでいる仕草の、いずれもがウリエルを惑乱させる。
――― これは、幻覚、か?ああ、何て、残酷、な。
「さながら、カシオペアの娘のようだね、大天使」
――― この声は!? 声、までも?
優しく語りかけられるその愛しい音に震えが来る。
「・・・では、貴方はゼウスの息子ですか。
邪眼を操る御方よ」
――― ああ、むしろ化け物であれば、これほど畏れなどしなかっただろうに。
くす。
「いいや。今の俺は」
――― ティアマットだよ。可哀想なアンドロメダ。
最愛の主の声でそう囁いた闇の獣は、そのままウリエルに柔らかく口づけた。