ティアマット 2


腕を動かすと、ガチャリと鎖の音が闇に響く。
その反響は、その場の広大さを示し、この後、現れるであろう獣の巨大さを暗示するかのようだ。

シュラの部屋で衛兵達に目隠しをされたウリエルは、どことも分からぬこの場所に連れてこられ、
両手両足を鎖で拘束された。
その鎖のいずれもが一端を固定されているのか、ある程度は動くが、逃げることはできない。

(にえ)、か)
どこか冷静に、ウリエルは頭の中でその言葉を紡ぐ。

(闇の獣、と言っていたか。魔将軍がこぞってあの畏れようとは)
どのようなモノが現れるのか。

(そういえば、先ほどクー・フーリンとロキに)
連れてこられる途中で、二人に呼び止められ

(何やら、薬を渡されたが)
少しはマシになるだろう、と言って。

(幻覚剤?麻酔の一種?か)
戸惑う衛兵を黙らせてまで。

(・・・余程の痛みか)
だが、自分がどうなるのか、そんなことよりも。

(目隠しをされる前に見た、あの方の痛ましげな瞳だけが)
あのようなお顔をさせてしまったことだけが、今は辛い。


――― やがて、俯くウリエルの耳に、キィと扉が開く音がした。



◇◆◇


(な・・・に・・・?)

聞こえてきたのは、想像した獣の咆哮ではなく、静かな溜息とゆっくりと近づく足音。

ウリエルの前で立ち止まってしゃがみこみ、やさしく頬を撫でる指。
撫で下ろした、下げた中指の先でくいと顎を上げさせ、ふわりと笑う気配。
その聞き知った音の、馴染んでいる仕草の、いずれもがウリエルを惑乱させる。

――― これは、幻覚、か?ああ、何て、残酷、な。

「さながら、カシオペアの娘のようだね、大天使」

――― この声は!? 声、までも?
優しく語りかけられるその愛しい音に震えが来る。


「・・・では、貴方はゼウスの息子(ペルセウス)ですか。 邪眼(イービルアイ)を操る御方よ」

――― ああ、むしろ化け物であれば、これほど畏れなどしなかっただろうに。


くす。
「いいや。今の俺は」

――― ティアマットだよ。可哀想なアンドロメダ。

最愛の主の声でそう囁いた闇の獣は、そのままウリエルに柔らかく口づけた。




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この話の間、後書きは基本反転です。

ペルセウスが操る邪眼はメドゥーサのアレです。
アンドロメダは当然ギリシャ神話のお姫様の方でお願いします。
まちがってもネビュラチェーン発動させたり、どこか弾に似た兄貴を思い出したりしないように。