ティアマット 4


「あぁ、う、あぁあ・・・っ」

洞窟を思わせる広いその閉じられた空間に。
絶え間なく、鎖の音が響き、羽毛が舞い、天使が喘ぎ、残酷な悪魔のくすくす笑いが落ちる。

「・・・すごいね、お前」
何度目かの波の後、感心したように悪魔が言う。

(・・・?)
霞が かかった思考で、天使は主の言の葉の意味を必死で取ろうとする。

「まだ、狂わないんだ」
(こ、れで、まだ?)

「・・・もう、やめようか?」
(やめ、る?・・・何を、やめると)

「俺の傍に居たいから、こんな目に遭ってるんだろ」
(ああ、そう、です。貴方の傍に、居たい)

「今なら、まだ。やめてあげられるよ。ね、やめておこう。お前を壊すのは惜しい」
そう言って、何の未練も無いかのように、あっさりと離れていく冷淡な獣の肌。

「う・・・あっ」

その、ただ肌が擦れる感触だけでも、既に身体は快楽を得るのに。

「ほら、辛いだろ。俺の傍になんか居たくないって、一言」
「い・・・や」
(いか、ないで)

「ん?」
「やめ、ないで、くだ」
(また、置いて、いかれる、のですか)

ヒュウ、と微かな口笛が聞こえ、感嘆の声が続く。

「・・・まだ、マトモな言葉が紡げるとはね。恐れ入ったよ」
「同じ・・・ことです」
(そう。きっと、同じこと)

「何が」
「いず、れ、私は、狂う」
(きっと、狂う)

「狂う?どうして」
「貴方の、傍に、居られ、ないなら」
(いいえ、既に、もう、狂っている、のかも、しれない)

そう。私は、知って、いた。少しずつ壊れ、崩れ落ちていく自分を。
・・・貴方を怨みつづけた天国という名の地獄で。
何度も、何度も思い知ったのだ、貴方なしでは、もう、生きてなどいけないと。


ジャラ、と鎖の音を引きずりながら、ウリエルは主の声がする方へと手を伸ばす。

――― まだ、動けるか。
闇の獣の瞳が見開かれる。

「な、ぜ。いつも、貴方は、わたしを置いて」
主の気配を辿って伸ばされた腕は、ガシャリと、無感動な音に止められて空を切る。

「何、度、わた、しを、地獄に、突き、落とせば」
同じく、歩みを拒まれた脚は冷酷な床に膝をつく。

「い、かないで、くだ、」
それでも伸ばされる四肢は枷にえぐられ、涙のように血を流した。



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この話の間、後書きは基本反転です。

いや。本心から可哀想だな、と思ってるんですが。結果的に放置○○○に。