「あぁ、う、あぁあ・・・っ」
洞窟を思わせる広いその閉じられた空間に。
絶え間なく、鎖の音が響き、羽毛が舞い、天使が喘ぎ、残酷な悪魔のくすくす笑いが落ちる。
「・・・すごいね、お前」
何度目かの波の後、感心したように悪魔が言う。
(・・・?)
霞が かかった思考で、天使は主の言の葉の意味を必死で取ろうとする。
「まだ、狂わないんだ」
(こ、れで、まだ?)
「・・・もう、やめようか?」
(やめ、る?・・・何を、やめると)
「俺の傍に居たいから、こんな目に遭ってるんだろ」
(ああ、そう、です。貴方の傍に、居たい)
「今なら、まだ。やめてあげられるよ。ね、やめておこう。お前を壊すのは惜しい」
そう言って、何の未練も無いかのように、あっさりと離れていく冷淡な獣の肌。
「う・・・あっ」
その、ただ肌が擦れる感触だけでも、既に身体は快楽を得るのに。
「ほら、辛いだろ。俺の傍になんか居たくないって、一言」
「い・・・や」
(いか、ないで)
「ん?」
「やめ、ないで、くだ」
(また、置いて、いかれる、のですか)
ヒュウ、と微かな口笛が聞こえ、感嘆の声が続く。
「・・・まだ、マトモな言葉が紡げるとはね。恐れ入ったよ」
「同じ・・・ことです」
(そう。きっと、同じこと)
「何が」
「いず、れ、私は、狂う」
(きっと、狂う)
「狂う?どうして」
「貴方の、傍に、居られ、ないなら」
(いいえ、既に、もう、狂っている、のかも、しれない)
そう。私は、知って、いた。少しずつ壊れ、崩れ落ちていく自分を。
・・・貴方を怨みつづけた天国という名の地獄で。
何度も、何度も思い知ったのだ、貴方なしでは、もう、生きてなどいけないと。
ジャラ、と鎖の音を引きずりながら、ウリエルは主の声がする方へと手を伸ばす。
――― まだ、動けるか。
闇の獣の瞳が見開かれる。
「な、ぜ。いつも、貴方は、わたしを置いて」
主の気配を辿って伸ばされた腕は、ガシャリと、無感動な音に止められて空を切る。
「何、度、わた、しを、地獄に、突き、落とせば」
同じく、歩みを拒まれた脚は冷酷な床に膝をつく。
「い、かないで、くだ、」
それでも伸ばされる四肢は枷にえぐられ、涙のように血を流した。