「お前が、悪いんじゃない」
血に染まった両手を見つめたまま、震える天使に優しい悪魔が言い聞かせる。
「お前の、せいじゃない」
「いいえ」
固い、震える声で返すウリエルをシュラは怪訝そうに見る。
「ウリエル?」
「私は、私はまた貴方を」
「何のことだ?」
「お許し、ください。シュラ様」
「だから、お前のせいじゃ・・・」
主の言葉を遮って、下僕は懺悔を続ける。
――― そう、これこそが。私が、一番、恐れていた、こと。
「私は、知っておりました、あの時も」
「あの時?」
「貴方が腕を私にくださった、あの、時も」
「・・・俺が勝手にやったことだろ。おまえのせいじゃない」
「私は、知って、おりました。私が天界に帰ることを、貴方が望まれていると」
「・・・」
――― これこそが。私の最大の罪。
知っていた。貴方の苦しみを知っていたのに。貴方の手を離すことができなくて。
貴方の身体と心に酷い、酷い傷と苦しみを負わせた。
そして自らを被害者だと、そう、思い込むことでこの罪を隠蔽し。
あろうことか、貴方を憎むことで、この罪悪感を怒りに摩り替えて、きたのだ。
「貴方が、苦しんでおられるのを、知っていて、それでも」
――― 貴方の鳥籠から出るのが嫌で、ずっと、知らないふりを。
「貴方の、心が、私を、想って、ゆっくり、傷ついて、いかれるのを、見ながら」
――― 悦んでさえ、いた。
「貴方の、心を、守りたいと、誰よりも願っていた私が」
――― いつも、いつも、貴方を傷つけ、血を流させる。
ああ、なんて、醜い。
こんな醜い汚い私が。
貴方の傍に居ることなど許されるはずが。
パンッ。
「・・・それで、お前はどうしたい」
軽く頬を叩かれて、気付くと天使の目の前には怒ったような金の瞳。
「俺から、離れるか?」
「あ」
「離れて、狂って、死ぬのか?」
(きっと、そうなる。貴方に焦がれて、焦がれて、狂い死ぬのだ)
諦めたように瞳を閉じるウリエルに、シュラは噛み付くようなキスを落とす。
「う、ぁ」
「分かってないようだから、言うけど」
「シュラ、様?」
驚いて目を開けた天使に、厳しい声音で悪魔は断罪する。
「もう、お前は俺のモノだから」
「・・・え」
「俺の許可なしに、俺から離れたりできると思ってるの?」
「シュ、ラ様」
その「罰」の余りの甘さに、天使の声が震える。それはむしろ、己の心からの願い。
「この首も、腕も、胸も、背中も、脚も、翼も、全部俺のモノだから」
お前はもう、死ぬことはおろか、傷一つ負うことはできないよ。俺の許し無しにはね。
そう、にこりと笑われて。
バカだなお前、そんなこと、怖がってたの?と、ふわりと抱きしめられて。
――― 犯した罪をすべて許されて。
天使は、その優しい悪魔の腕の中で、ただ、瞑目した。