ティアマット 14


「お前が、悪いんじゃない」
血に染まった両手を見つめたまま、震える天使に優しい悪魔が言い聞かせる。
「お前の、せいじゃない」

「いいえ」
固い、震える声で返すウリエルをシュラは怪訝そうに見る。

「ウリエル?」
「私は、私はまた貴方を」
「何のことだ?」
「お許し、ください。シュラ様」
「だから、お前のせいじゃ・・・」

主の言葉を遮って、下僕は懺悔を続ける。

――― そう、これこそが。私が、一番、恐れていた、こと。

「私は、知っておりました、あの時も」
「あの時?」
「貴方が腕を私にくださった、あの、時も」
「・・・俺が勝手にやったことだろ。おまえのせいじゃない」
「私は、知って、おりました。私が天界に帰ることを、貴方が望まれていると」
「・・・」

――― これこそが。私の最大の罪。
知っていた。貴方の苦しみを知っていたのに。貴方の手を離すことができなくて。
貴方の身体と心に酷い、酷い傷と苦しみを負わせた。
そして自らを被害者だと、そう、思い込むことでこの罪を隠蔽し。
あろうことか、貴方を憎むことで、この罪悪感を怒りに摩り替えて、きたのだ。


「貴方が、苦しんでおられるのを、知っていて、それでも」
――― 貴方の鳥籠から出るのが嫌で、ずっと、知らないふりを。

「貴方の、心が、私を、想って、ゆっくり、傷ついて、いかれるのを、見ながら」
――― 悦んでさえ、いた。

「貴方の、心を、守りたいと、誰よりも願っていた私が」
――― いつも、いつも、貴方を傷つけ、血を流させる。

ああ、なんて、醜い。
こんな醜い汚い私が。
貴方の傍に居ることなど許されるはずが。


パンッ。


「・・・それで、お前はどうしたい」
軽く頬を叩かれて、気付くと天使の目の前には怒ったような金の瞳。

「俺から、離れるか?」
「あ」
「離れて、狂って、死ぬのか?」
(きっと、そうなる。貴方に焦がれて、焦がれて、狂い死ぬのだ)

諦めたように瞳を閉じるウリエルに、シュラは噛み付くようなキスを落とす。

「う、ぁ」
「分かってないようだから、言うけど」
「シュラ、様?」

驚いて目を開けた天使に、厳しい声音で悪魔は断罪する。

「もう、お前は俺のモノだから」
「・・・え」
「俺の許可なしに、俺から離れたりできると思ってるの?」
「シュ、ラ様」

その「罰」の余りの甘さに、天使の声が震える。それはむしろ、己の心からの願い。

「この首も、腕も、胸も、背中も、脚も、翼も、全部俺のモノだから」
お前はもう、死ぬことはおろか、傷一つ負うことはできないよ。俺の許し無しにはね。

そう、にこりと笑われて。
バカだなお前、そんなこと、怖がってたの?と、ふわりと抱きしめられて。

――― 犯した罪をすべて許されて。

天使は、その優しい悪魔の腕の中で、ただ、瞑目した。





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この話の間、後書きは基本反転です。

つまり。この長い長いエロ話は、ウリエルの贖罪がテーマだったわけで。
・・・お前、もっと簡潔に書けんのかー。