「ね、え。いま、まで、てかげん、して、たの?」
「手加減というわけではありませんが」
必要以上の力を出すことも、ありませんでしょう。と微笑むと、むぅとした風で貴女は横を向く。
「ああ、お拗ねにならずに。・・・ですから、手を抜いていた、とか、そういう意味では無く」
狂戦士のときと、同じですよ、と、リンに軽く口付けながら宥められて、シュラは首を傾げる。
「バーサクのとき、と?」
「あのときの私の攻撃力はおそらく最大。けれど、制御の利かない力は無為へと走るのが常」
己の欲望のままに、無理やりに欲しいものを手に入れても、虚しいだけでしょう、と。
囁く私に、貴女はそう、だね、と甘く答えた。
――― そう。
必要以上に貴方を追い詰めれば、貴方が傷つく。それは我等の望むことでは無い。
・・・本当は。どれほどに、貴方の、何もかもを、奪い去りたいと、思っていても。
◇◆◇
「う、あ・・・っ!ゃ、だ・・・めぇ」
「お辛い、ですか」
「う・・・んっ・・・。い、や。まだ、大丈夫。だ、から、もっ、と・・・っ」
「・・・。仰せのままに、我が主」
光の檻に囚われたあのときに、鮮やかな諦念を見せられた貴方が、今こうやってより多くの光を。
再び、あの罠に掛からぬように、白の力を増やそうとされるのは。
あの小さい生き物を守るため、か。
「あぁ、リン・・・っ!」
「主様。あまり、この、愚かものを、惑わされますな」
止まらなくなります、と擦れた声で助言しながらも白い幻魔の動きはそのいたわりを裏切る。
深く激しくなる動きに連動して、高く甘くなる声を響かせ、
闇と光をその内に育み、天も地も人も惑わせる、美しきヘルマフロディトス。
貴方の内で、対のように、宿命のように。相反しつつ増大する光と闇の力。
それらはもはや器の能力を超えて、各々の支配を強めようと競い合う。
自らが、この美しい存在の、唯一として選ばれんと、切望、して。
「愛して、おります、主様」
魔界に存する故に、優勢を誇る闇のそれを調整、するために。
貴方はその有り余る闇をロキに注ぎ込み、削れ、薄れゆく光を私から奪う。
やがて、混沌の女神の内が、太陽の神の息子の中心を、捕え、魅了する。
「あ・・・っ、あぁあっ、ぃ、ぃいいっ!」
「・・・く」
こう、やって、身も心も、捕えておきながら、貴方は、いつも。
「あぁ、すき。・・・すきぃっ、ラ、イ、」
最高に幸せそうな、最強に甘い声で、貴方の崇拝者を地獄の底の、更に底へと突き落とす。