Iris Garten 03




「クズノハ!」

おいで、と、透き通った声が響く。

その音を聞き取った瞬間に、ピクと反応した白い耳の持ち主は急いで、駆けた。
この世で何より大切な、愛しい、主人の元に。

ああ、クズノハ。早かったね、と、寝台の上に座り、嬉しそうに笑う主人の髪は、今は長い。
いつもよりも柔らかい胸にきゅうと抱きこまれて、クズノハは理由も分からないまま、焦る。

とても嬉しいのに、とても困るのに、とても嬉しいのに、とても。
困る、と、じたばたと、最強の悪魔の腕の中でもがく真っ赤な顔の、白い子狐を見て。
シュラの護衛と看護についていた仲魔達は、心の底から同情と、複雑な妬心を覚えた。



◇◆◇


数日前に区切りがついた重要エリアの攻防は、これまでになく激烈を極めた。
結果的に勝利を収めたものの、間断なく続く激闘を最初から最後まで戦い通した、シュラは
魔界へ帰還するなり昏倒し。瞬時に女性体に変化してしまったその体に、あわててマントを掛け、
介抱しながら、誰もが己を責めた。主人の体をそこまで酷使させた、自分たちの不甲斐無さを。

そしてクズノハは。
シュラの体調、少なくとも意識が回復するまでは、と、部屋に入ることを禁じられ。
今、やっと会えた主人の、女性体ならではの攻撃に真っ赤になって陥落寸前となっている。

「シュラ!クズノハが窒息しそうになってるわよ!!」
見かねたピクシーに言われて、やっとシュラがその腕の力を緩め。

ごめん。クズノハ。久しぶりに会えたから、嬉しくて。
その幸せすぎる言葉に、「キ、キュ(い、いいえ)」と、答えようとした子狐は。
その直後、自分の鼻先にチュと落とされた柔らかい唇と、目の前で弧を描く金の光に、直撃され。
「・・・キュウ」と、半分意識を飛ばしてしまった。




next→

←back

魔界top

後書き反転

(さすがだわ。シュラ。怒涛の攻撃ってこういうことを言うのね・・・by ピクシー)