Iris Garten 05




こんなところが、あったんだ、と。
クズノハは驚いて、クルクルきょろきょろと何度も辺りを見回す。

「ここは、『Iris Garten』・・・“虹の庭”だよ」
前に、ルイが、贈り物だよって、くれた庭なんだけど。お前は初めてだね、クズノハ。

言いながらシュラが近づくのは、中央にある小さな泉。
その泉の真ん中に、象徴のように咲く一本のIris。




そして、泉を囲むのは青、紫、赤、橙、黄・・・虹のようにグラデーションを成す、円形の花壇。
いや、その広さはむしろ花園、というべきか。

「綺麗でしょ?白と、黒の花は無いけど。他の色は大体あるんじゃないかな」
「キュ(どうして)?」

「ん?どうしてかって?えっと、白はルイが好きじゃないし。黒は・・・私が嫌だったから」
「キュ?」

「どうして、かな。よく、分からない。・・・私が黒いからかな」
ぽつりと落ちた言葉が、あまりに悲しそうで、クズノハはどうしていいか分からなく、なる。

戸惑った子狐に気付いたか、
いいから遊んでおいで。クズノハ。私はあまり動かないほうがいいらしいから。
ほら、蝶々が飛んでる、と、今は乙女な主人はクズノハに、にこり、と笑って見せた。



◇◆◇



しばらく、庭で 遊んで いる うちに、何体か 白い方々が やって こられました。
今に して 思えば、それは シュラ様の 体調を 整える為、だったのでしょう。
黒い力に 引きずられて、壊れそうに なった、あの方の 体を。


今でも、ぼくが 覚えて いるのは、ユニコーンと、クー・フーリン様。
ユニコーンの 角は 万能の薬だから その 治癒の 力も 高い、と、今なら 分かるのですが、
あの時は なぜだか シュラ様を 取られるような 気が して、とても 不安でした。



◇◆◇



美術を履修した者が見れば、”色相環チャート”のようだと無粋に喩えたかもしれないその花園は、
バラに椿にカンナ、ヒナゲシ、キンセンカ、山吹、菜の花、月見草に、猫じゃらし、矢車草、ラベンダー、ガーベラ、スイートピー  etc、etc・・・。

様々な色の花が、季節も種類も何もかもを越えて混在し、一体となり、その場に在った。
二度とは出会えぬ、悪夢のように。


ひらひらと飛ぶ蝶々に、ぴょんと跳ねるバッタに、キラリと光る甲虫に夢中になって遊んでいた子狐は、ふと大事な主人の傍に一頭のユニコーンが 控えていることに気付く。

虹の花園に座る、女神のような少女の傍に佇む、白い一角獣。
しかし、その夢のような光景に似つかわしくない、その獣の持つ“鋭角”に、一瞬、ドキリとした 子狐の胸の鼓動は、シュラがその獣の角を、額を、 鼻面を、懐かしそうにそっと撫で上げる指の優しさを見て、どこか違う響きへと変わる。

慌てて主の傍へと走りよる白い小さな獣に、同じ体色を持つ一角獣は、まるで仇敵に出会ったような、 冷淡で不穏な視線を投げる。・・・が。

「イケブクロでは助けてくれてありがとう。久しぶりに会えて嬉しかった。また、会おうね」
と、ぽんぽん、と優しく鼻面を叩きながら囁いたシュラの言葉に、 何かをしぶしぶ諦めたように、
ヒヒンといなないて、ゆっくりとその場を立ち去った。





next→

←back

魔界top