Iris Garten 09



青い花園の中。
とても、嬉しそうに花を眺める主の邪魔にならないよう、そっと脇へ寄る子狐に気付いて。
シュラは、プチと一輪、青い星を摘んで、白いクズノハの耳元へ、そっと挿し込む。

「やっぱり、お前に似合うね」

・・・やっぱり?・・・僕に似合う?と、怪訝そうに首を傾げる白い面に、
彼の主はふふ、と笑って、「”晴明桔梗”ってあるでしょ」と、回答を提示する。

”セイメイキキョウ”? またコテと傾げられる獣の頭を左手で撫でながら、
ほら、これ、と。地面に描かれるのは、五芒星。5つの点を一筆書きで繋いだ、花と同じ星の形。





「お前が名前をもらった、葛葉狐の息子の(いん)
たしか、この花からあの星の印を取ったんだよね。だから、きっとお前の力も高めてくれるよ。

そこまで言って。・・・ああ!だから、と、シュラは思い当たったように笑う。

だから、お前が触ると、咲いたのかな?
「ありがと クズノハ」
お前のおかげで、思い出せたよ。桔梗の花。

そう言われて、キュウン、と照れたように鳴き、そのまま、興味深げに花を眺める子狐の横で、
ふと思いついたように主人は桔梗を一輪摘み取り、きゅ、とその花びらをつまんで、指先で擦り。
・・・え?と思うクズノハの前で、シュラはその微かに滲み出た青い花の滴を

つ い と自分の指に塗り付けた。







◇◆◇







何を、なさっているのかと、不思議に 思いました。

どうやら、シュラ様は そうやって、幾つか 花を 摘んでは、

その 花びらの 青い色で 指を 染めようと、されているようでした。


・・・でも、







◇◆◇





「やっぱり、今の私の体は、染まらないね」
何度目かに、ふぅ、と悲しそうに溜息をついて、シュラは呟く。

それは、当然といえば、当然のこと。
最強の悪魔の肌が、魔界に咲くとはいえ、ただの花の液などに染まるはずも。
もはや、己の意思以外の、何にも染まらぬ、孤高の存在を見て、クズノハも思う。

――― ああ ”かなしからずや”・・・あの、”かなしい”は、どんな意味だった、だろうか。と。


キュウ、と慰めるように鳴く声に、シュラは諦めた笑顔で答える。

「お前を見て、思い出したんだよ。クズノハ」
「キュキュウ?(ぼくを見て?)」

「・・・うん。かわいいかわいい、けなげな、白い子狐の、お話

・・・たしか、こう、するんだって、と。
シュラは自分の親指と親指、人差し指と人差し指の先を繋げて、小さい歪な菱形を作ってみせる。

「この桔梗の花の汁で染めた指で、こうやって”青い窓”を作って覗くと」
窓の中に、もう二度と会うことのできない、大切な、一番大切な人達が、見える。そんな・・・話。


そのまま黙ってしまったシュラは。
やがて、・・・少し、疲れたみたい、と。諦めたように呟き。

青い星の中にふぁさ、と白い布の波が作られるのを、白い子狐はじっと、見つめていた。




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後書き反転


「かなしい」は ”哀しい”か”愛しい”か”悲しい”か。

※葛葉狐の息子=安倍晴明。五芒星画像は、三重の神明神社(石神さん)のお守りの一部を拝借。

※題材はきつねの窓 (おはなし名作絵本 27) 安房 直子 作  織茂 恭子 絵 より

管理人の狐好きレベルが如実に分かる卑怯ネタ連打創作。

五芒星のお守りですが、これ、あれです。ドーマンセーマン!!
石神さんは、海女さんたちの神社。ええ、三重の。(ロマサガ2でトバと海女が出たときは爆笑)
女性の願いなら何でも一つ叶えてくれるそうな。お守りは「貝紫」で図案を染めてあります。
(この貝紫にこだわりたくて、己のお守りを撮影したという、大変な罰当たり)

そしてそしてそして『きつねの窓』をご存知ない方は、今すぐ本屋さんへ!!きっと一生の宝物に!!
からくりサーカスでも使っておられましたよねぇ。いいなぁ、ってずっと思ってて・・・(笑)。
まちがってもポケット文庫を買ってはいけませんよ!!絵本は絵があってこそ何十倍もの価値が!
(しかしそうか、だからお前はクズノハを白狐にしたのかと・・・。本当に申し訳ありませんー!!!)