Iris Garten 11




クイクイ、と、柔らかな鼻先で、つつかれて、青い花の褥で寝ていたシュラは目を覚ます。

ああ、私、寝ちゃったんだ。ごめん、クズノハ、今、起きるから。
そう、言いながら、横すわりに起き上がり、目を擦ったシュラは、ハッと息を止める。

目の前に、小さな。
・・・とても、小さな、青い、歪な、菱形。

その窓の中で、微笑むのは。見たことも、会ったことも無いはずの、黒髪の。美しい。




◇◆◇




なにか。 シュラ様に して さしあげられないだろうかと、 ぼくは 思いました。

まだ、 ぼくは 人には 化けられないけれど、 両手ぐらいなら、 きっと、 人の 容に。

そして、 僕ぐらい 弱ければ、 この 花で 指を 青く 染める ことも できるだろうと。


少し 時間は かかりましたが、 思ったよりも じょうずに それは、 できました。


シュラ様が 本当に 会いたい 人に 会えるように、 そう 願って。

シュラ様を 起こして、 目の前に 自分の 指で 作った 青い 四角を。





・・・あれ?

男性体に 戻られたの、だろうか。






◇◆◇





クズノハが、自分で作った青い菱形の窓に、見たのは。

嬉しそうに。とてもとても嬉しそうに笑う、少年の姿。
懐かしく思える町並みを、日本の着物をつけて軽やかに走る、シュラの姿。

でも、ああ、良かった。と子狐は、思う。

男の容に戻られたのだから、お元気になられたのだ。
・・・なぜか、いつもより、幼いように、見える、けれども。
・・・・・・あんな笑顔は、今まで、一度も 見たことが 無かった、けれども。

やがて。その違和感に気付く間も無く。
力を使いすぎた幼い子狐は、パサ、と青い花の中に倒れこみ、そのままスウスウと寝てしまい。

ずっと女性体のままだった(・・・・・・・・・・・・)シュラは、獣の前足の容に戻った、その、白い。

・・・今は、先っぽが、青く染まった、小さな白い前脚を、優しく優しく両手で包んで。
そっと、くちづけを落とした。




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後書き反転

もう二度と会えない大切な人、が、見える窓、なのです。