「・・・で?」
「で、とは?」
不機嫌そうなシュラの声に返るのは、心底楽しそうなルイの声だ。
「これって、一体、どーゆー趣向なわけ?」
「だって、一時的とは言え、君の嫁を決めるのだよ。私が立ち会わなくてどうするのだね?」
「・・・」
白々しく言い返す普段より高めの声に、それも「嫁」という単語まで囁かれてシュラは脱力する。
「いや、立ち会う立ち会わないじゃなく・・・なんで、今日は、また、“ そ の 容 ”なの・・・?」
「くす。いい “ 弾 除 け ”になると思ったのだが?」
迷惑だったかい?と、ルイは絶対零度の混沌王の機嫌を楽しそうに眺めて、言いのける。
「悪趣味だな、ルイ・・・」
「ふふ」
大広間の上座に鎮座された2つの玉座。片方に座るのは、仏頂面のシュラ。
そのシュラと、見せ付けるようにわざわざ腕を組んで、おまけにしなだれかかる体勢で
もう片方に座る・・・“ 女 性 の 姿 ”をしたルイ(推定設定年齢18歳)が座ったその前で。
シュラという賞品を狙って集った、文字通り「女悪魔」の群れは戦闘不能状態で凝固している。
(ちなみに玉座の後方には、どこかで見たような、青い肌と、紫の肌の「金髪美女」二人が非常に
対照的な衣装と
表情で控えているのだが、ルイの強烈すぎる個性に打ち消されて、幸か不幸か
上手い具合に目立っては、いない)
「ところでどうかな、この衣装は? 私に似合っていないかい?シュラ」
「・・・」
シャラリ、と髪に挿したかんざしを優美に揺らし、妖艶に上目遣いで微笑む美女に。
シュラは、一般的な感覚とは全く違う意味で眩暈を覚える。
「・・・いや。・・・キレイだよ。似合ってる。それは、認める・・・けど」
「けど?」
「・・・どっから持ってきたんだ、その・・・ええっと、振袖?黒い色のって珍しくない?」
「大正からだよ」
「大正?大正って・・・昭和の前の大正?何でまたわざわざ」
「ちょっと用事があってね。で、とあるところで、とある事情で、“ものすごく綺麗な子”がコレを着ているのを見てね。
これはいい、と思って、一着買っておいたのだが」
まさか、自分が先に着るとは思わなかったよ。と、着物を着た異人さんは意味深に笑う。
ああ、ちなみに、シュラ。
「大正時代だと、婚礼衣装だった、そうだよ。これ」
ふふふ。意味が分かるものがこの場に何人居るか楽しみだね、と呟かれて。
「・・・・・・」
何で婚礼衣装着たお前と並んで腕組んで座んなきゃなんないのー!!
つか、絶対その姿のお前とベッドインなんて、い や だ か ら ー !!
そう叫ぶのはさすがに憚られて、シュラははぁ、と溜息をつく。
育ての親の、凶悪すぎる悪戯心に隠蔽された、若干の心遣いは、理解して、いるから。
「ま・・・いちお、礼は言っとくよ、ルイ」
いくら何でも、これだけの女性悪魔を相手にしたくない。俺。・・・複数の意味で。
「いや、私に遠慮せず、いい子が居ればそれはそれで構わないのだよ」
君が、自ら伴侶にしたいと思えるほどの魅力ある“魔物”が現れるか。
「この姿の私が横に居ても、君に言い寄れるほどの、女傑が、この魔界に、居ればね」
「ホント、悪趣味だな、ルイ・・・」
◇◆◇
(ジ、ジル、ほ、ほんとに、いいの、かな)
(大丈夫だって!3桁も女悪魔が集まってるのよ?アンタ一人ぐらい紛れ込んだって平気よ!)
(だ、だって・・・)
(だってもおかしもない!もう、アンタが渋るから出遅れちゃったじゃない〜)
(で、でも、な、なんか、さっきから見られてる、んだけど)
(・・・そりゃ、そうでしょうね・・・)
(そりゃ、そう・・・って。や、やっぱり、女装しているの、ばれたんじゃ)
(・・・はぁ。女性体になってんのに、女装も何もないでしょうがっ!)
(だ、だって、ほら。皆、こっち見てる気が・・・。に、睨まれてる気も)
(・・・ホント、アンタ自覚無いわね・・・)
(え?)
戸惑ったように振り向くその姿だけでも、事情を全て分かっている自分ですら眩暈がしそうなほど
美しいソレを見て、ジルは複雑すぎる思いに囚われる。
(・・・まさかこんなに綺麗だとはねぇ。多少予想はしてたけど、私もビックリだわ・・・)