Metamorphose 04








「これ、が、いいです」






「ねえ、どの衣装がいい?」
あんたが先に選びなさいよ。私はどれでもいいしー。
楽しそうなジルに促されて、クズノハが戸惑いながらも選んだのは。

「・・・え?それ?・・・シンプルがいいっぽいとは言ったけど、それぇ?シンプルすぎない?」
まぁ、色は確かにキレイだけどー。ふぅん。シュラ様、こんな色がお好きなんだ。
え?好きなわけじゃないかも・・・って、もう!はっきりしないわね!!


こうして。
合コン・・・じゃなかった、乱こ・・・でもなく、お見合いパーティ当日。
ジルの城に強制連行されたクズノハは、滝のようにあふれる豪華絢爛な衣装にクラクラしつつも、
とりあえずは動きやすそうで・・・どこか、懐かしい色と形のそれを選んで、みたのだが。


「ジ、ジジジジジルさまっ!」

前から気になっていた、主人の新しい幼い友人。綺麗で可愛い雄狐。
この最高の素材を思い切り、しかも成長させた女性体で着飾れるとは何たる僥倖、とばかり、
手ぐすねひいて、いや、思いっきり気合を入れて、この日を心待ちにしていたジルの侍女達は、
出来上がった傑作のあまりの凄さに、銀髪金目の主人を慌てて呼びにくる。

「なによーいきなり。アブラゼミみたいに。もう。髪のセットがずれちゃうじゃない〜」
「でででで、ですが、ちょ、ちょっとあの男の子、じゃなかったクズノハ様が」

「なーにー?この期に及んで、まだ女装が嫌だとか言ってるの?」
「そ、そうじゃないんですが、と、とにかく」
見に来てください!私達では判断がつかないんです!!と懇願されて。

・・・見た目も年齢も衣装も化粧も全部調った、女性体のクズノハを、見て。

「・・・こりゃ、“ け し か ら ん ” わ」
と。ジルはお姫様らしからぬ、不穏当な台詞を呆然と落としたのだ。




◇◆◇



そんな朝からの大騒ぎも思い出しながら、ジルはつくづくと本当は雄のはずのソレを見る。
(判断がつかないんです・・・か。そうだよねー。設定上、私ともシュラ様を取り合う立場になるんだから、明らかに主人より魅力的な、こーんなとんでもない美人ができあがったら、ウチの侍女連中もどうしていいか分からなくもなるわねぇ)

己の傍に立つ、姿勢のいい涼やかな、美女。
白い肌。その白さを際立たせるような、潤んだ大きな、黒い瞳。長い睫毛。赤い唇。
すんなりとした華奢な体に纏うのは、ふわりとした布でできた古代ギリシャ風の衣装。
いくらなんでもシンプルすぎる、ということで、肩と腰に飾りをつけ、薄いマントのように服と同じ布地を肩から背に流してみた、のだが、これがまた。
(長い黒髪と合いすぎるぐらい合ってるし・・・、おまけに)

Iris Violet(アヤメ色)、・・・いや、むしろ桔梗色か。この、青味の濃い淡い紫色がこれまた。
(白い肌と黒い髪を馴染ませるように、ぴったりと似合ってて)

くうっ。ほんとにもう何よ、この。見たことも無いような美人は・・・。
冗談のつもりだったんだけど、ホントにこの子がお相手に選ばれそうな気がしてきたわ・・・。
・・・って、どどどどど、どうしようっ!シュラ様、オス相手でも大丈夫だったかしら?!
というか薬の効果って何時間?その間にシュラ様がこの子を離してくれなかったらどうしよー!

どんどんと斜め上の方向へ思考を飛ばし、青ざめていくジルと、それを怪訝そうに見るクズノハは広間へと足を進める・・・と。 上座に見えるのは魔界の誇る二人の“王”。

――― ただし片方は“アレ”。

(ええっ?)
(・・・ムカ)

「ア、アレって・・・ル、ルイ様・・・?そ、それでまだ誰もシュラ様にとびかかってないのね」
「・・・・・・・・・」

麗しい地獄の支配者・・・の、お茶目な姿を見て、この場の状況を納得するジルの横で、思いっきり機嫌が降下するクズノハである。

「・・・あら、ジル様。今日はまた、素敵なお友達をお連れで」
「まあ、ごきげんよう、リーザ様。・・・里の幼馴染、ですのよ。最近こちらに出てきたので」

(げっ、蛇一族のリーザ!・・・こいつネチっこいから嫌いなのに〜)
顔はにこやかに返しながらも、心の中ではうんざりしながらジルは話しかけてきたソレを見る。

赤い髪、赤い瞳、黒い妖艶なドレスをまとった女悪魔は、ジルの説明を聞きながら、フフン、と鼻を鳴らしてクズノハをじろじろと、見る。
「まあ。いかにも狐らしい、時代遅れな衣装をつけておられると思ったら・・・それで。ホホ」
「(怒)そんなことより、さすがのリーザ様も今日はシュラ様にトグロを巻けないようで」
「く。そ、そういうジル様こそ、気後れして尻尾を巻いて逃げたのかと思っていましたわっ」

・・・狐一族のジルと蛇一族のリーザ。魔界で美貌魔力共に次代の双璧と言われる、女怪だ。

幼い頃から互いの一族が競い合うように彼女達を公の場に出したことも、あるが。
元々が、嫉妬の象徴とされる蛇、と、強欲の象徴とされる狐。
裏工作大好きインケンネチネチなリーザ蛇と、文句がありゃ表へ出ろやケンカジョウトウなジル狐。
まあ、水と油というか。犬と猿というか、蛇と狐というか。・・・その。思い切り。

「まあ〜気後れですって〜。誰に向かっておっしゃってるのかしら〜」
「そうおっしゃるなら、とっとと上座へ行って、ルイ様に対抗してくればいかが〜?」

・・・仲が悪い。
ああ。またいつものが始まった、と思いながら、周囲の女悪魔はとばっちりを受けるのを恐れて微妙に彼女達から距離を置き始める。

「そうやって人に難題をズリズリなすりつけるのはホントに蛇の中の蛇ですわね(キィッ!!)」
「な、そっちこそ。狐らしく今すぐシュラ様に尻尾振ってらっしゃいませよ(シャーッ!!)」

「分かりました」
「「・・・え?」」
売り言葉に買い言葉の、言葉の応酬を、その涼しい一言でまるっと買い占めたのは。
蛇姫と狐姫の悶着など意にも介せず、その横でずっとルイを睨みつけていたクズノハ。

「行きましょう。ジル。尻尾を振りに」
「「・・・へ?」」

(ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、クズノハ!あ、あんた、状況分かってる?)
「分かっていますよ。シュラ様が“他の女”に喰われるかもしれないんですよね」

(や、そ、それは、そうだけど、いや、あんた、もしかして、すっごく、怒ってる?)
「・・・」

(な、なんで、そんなに、怒ってるのー?)
「・・・あれ、婚礼衣装、です」

(あれって、どれ!)
「ルイ様の着ている・・・黒い・・・」

(え?・・・そ、そう、なの?さすがルイ様、やりすぎー。でもあんた、なんでそんなこと、知ってんの)
・・・って、いや!だから!そんな問題じゃなく・・・!
つか。私まで一緒に引っ張っていくのは止めてーと心中で叫ぶジルを一顧だにすることなく。
この場で一番美しい女悪魔は、友人の腕を握ったまま、ずんずんと上座へと歩みを進めた。





next→

←back

魔界top

後書き反転

途中で薬がキレたら、どうなるんでしょうねぇ。(あ、投げた。 妄想を)