Metamorphose 09




「な!クズノハ・・・どこから、あんな刀を・・・って!まさか、六本目!?」
突然に顕現した美しい弧を描く得物を構える友人を、遠くから認めたジルは驚愕の声をあげ。

「ほう」
主人の危機に、能力を即座に上げたか。それも、本体から尾を分離させて武器にまで成せるとは。
「・・・やるじゃないか、子狐クン」
高みの見物の地獄の王は、愉しげにくすくすと、笑い。

「・・・!、これ、は」
主の状態を確かめるなり、ディアラハンを詠唱して傷を癒したウリエルは憎々しげに、眉を寄せ。

「出歯亀で、悪いなぁ、シュラ」
クズノハの援護に回ったロキは、シュラの口元を見ながら、片目を苦く瞑って、みせた。



「桔梗、下がれ!後は俺達で何とかする!!・・・聞いているのか、桔梗!!」

戦闘モードでキレてしまったのか、他者の言が耳に入らぬ様子のクズノハにシュラが叫ぶ。
その合間にも続く、鋭い日本刀の攻撃に怒った化け物の尻尾が、クズノハを吹き飛ばし。

「桔梗!」
「・・・く」
悔しげに立ち上がる、その白い肌から。口元から流れる、赤い、血。

――― を、シュラが見た瞬間。

凄まじい濃度の魔力が、その場へと凝縮、した。





◇◆◇




(ど、どうして、アイツがシュラ様を襲ってるのよ!)
アノ場に居る、“一番強い女悪魔”を殺せって、言ったのよ、私は!!

少し離れた場から、己の出した指示の顛末を・・・件の女狐の死亡を・・・心待ちにしていたリーザは仰天する。

「どういうことなの!!どんな指示でも正確に果たす化け物なんでしょう?!!」
「は、はい。リーザ様。確かに、そう聞いて入手して、来たのですが」

短気な主人の癇癪に、心底脅えた様子で腹心の部下が言い訳を、する。
しかし、その言葉は途中で途切れ。

「・・・そう。アノ場に居る、“一番強い女悪魔”・・・ね」
なるほど、それならアノ化け物が、我が主を襲うのも、無理からぬこと。
それでなくとも、アレが狙っていたのは、ルシファー様ではなく、我が主、なのだから。

「な、あ、貴女は!」

驚き慌てる周囲を意に介することなく、リーザの腹心の部下を、自らの蛇に巻きつかせたリリスは、その美しい瞳を光らせながら、冷酷に事務的な質問を投げた。

「では、一体どこから、あの化け物を“入手”してきたのか、教えてもらいましょうか」
・・・蛇一族の面汚しども・・・!





◇◆◇




「はっはー、リミッター切れやがった!」
ひっさしぶりー!と、愉しそうに笑いながらもどこか青い顔のロキにウリエルが問う。

「リミッター・・・?」
「・・・いつもいつも、これだけの魔力、放出してたら、大変だろ?」
弱っちい天軍の輩なんぞ、この魔力を感知しただけで逃走しかねないだろうが。闘いにならねー!

確かに、と、辛辣な評価に同意する、元天軍の指導者は、更に増して行く主の魔力に震える。
(・・・これほど、とは。・・・唯一神やルシファーの執着も、分かる、というもの)

いや、しかし、これほどの、魔力を内包した“元・人間”が、本当に実在する、のか?
(・・・だとしたら、それは“何”だ?)

いや、それよりも。
これだけの魔力を持つ者が、個として存在しつづけられるのか?・・・本当に?

ゾク、と喪失の予感に脅える元・大天使に混沌の王の指示が飛ぶ。


「ウリエル!お前は青い首を狙え!」
「お任せを」

「ロキ!」
「わーかってるってー。黒いヤツだろ?」

ライドウ(・・・・)!白を頼む!」
「承知」

(((・・・な?!)))
当然のように、その名を呼び、呼ばれることに違和感を感じぬのは当の二人、のみ。

4つの首を同時に攻撃せねば倒せぬと。
その化け物の特性を瞬時に看破した彼らは、かつての如き絶妙のチームワークで、それを為す。
首を全て失った化け物は、最後の悪あがきとばかりに、残った胴体と尾のみで暴れようとするが。

「行くぜ、ライドウ」
「・・・言われずとも」

打てば響く声。に続く、絶妙な調和を持つ、美しい攻撃を見て。


「・・・おやおや」
と。ようやく、この場へと足を運んだルイが、皮肉そうに呟く。

「・・・へぇ」
「・・・」
「な。・・・“らいどう”って、誰それ?」

片眉をそびやかす者、皮肉気に笑う者、眉間にしわを寄せる者、怪訝そうに首をひねる者。
各々の保護者と仲魔達の反応を意に介する様子も無く。
美しい一対は戦闘という重奏を響かせる。

そして、時を置かず、ドウ、と倒れる巨体の内より出ずる、輝く、何か。

「ま、まだ、死んでないの?」
その眩い輝きに、金の瞳を細めながら落としたジルの呟きに、答えを返したのはルイだった。

「いや、違うね」

――― やっと、出てきたのだよ。我々の本当の敵がね・・・。




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後書き反転

もう言い訳もでてきませんです・・・。