Metamorphose 13



「これ以上は、ルシファー様の尋問(・・)に必要でありましょうから」
我が主への無礼。二翼を落としただけで許してあげましょう、ザフィエル。

弱点の翼を複数切断される、それは。恐らくは正気を失うほどの、苦痛。
狂ったのかブツブツと地に伏せたまま、うめくザフィエルの内から何か光るものが見える。
傍にいるウリエルからは見えぬそれを、遠目から確かめて。

「ウリエル!」
「ちょ!やべぇって!!」
「ロキ!? 何、を…っ?!」

動こうとするシュラを制止した上で、慌てて跳び出したロキがウリエルをかばった瞬間。
目がくらむような光量がカッと、その場に発生し。

再び視界を得たとき、そこには、いつかの闘いで見た“光の檻”がカタチを成していた。


「違う、獲物が、かかりましたか」
これは、これで、使いようが、ある、と嗤うザフィエルの声を聞いて。

光の檻の中で、指一本動かせぬロキが、苦しそうに呻き。
ロキと交代するようにシュラの傍へと羽ばたいたウリエルが、罠か、と悔しげに眉を寄せる。

「混沌の王よ!忠実なる配下を消されたくなければ、貴方が代わりに贄となられよ!」

その呼びかけに、これまで沈黙を守っていたシュラがようやくと口を開く。

「どうすればいい?ザフィエル」
(何という、声!)
初めてシュラに自らの名を呼ばれた瞬間に、神の密偵の瞳は歓喜の色で満ちる。
(ああ。何という美しい音色。やはり、貴方様こそが私達のSéraphitus!)

「この檻に触れて、ください。人修羅」
「いけません!主様!!」

闇の者は、触れただけでその身が消滅することさえあるのです!
と、制止するウリエルの耳元で黙っておいで、と、主は言葉を告げ。ゆっくりと檻に歩み寄った。



◇◆◇



(ふふ。上手くいった。挑発して偽の羽根を落とさせて、檻の材料を準備して)

檻の前で止まったシュラと、皮肉な笑みを湛えたまま佇むルシフェルを視界に入れながら、
ザフィエルは己の勝利を確信する。

(ルシフェル殿は手をお出しにはならない。
仮にも最高傑作と呼ばわれたほどの器。それを自ら助力するなどけしてされるわけが無い)

「さあ、貴方の配下を助けてさしあげるがよろしい」
早く助けないと、身の内の闇が全て中和されて“存在”が消えますよ、と
おぞましい言を吐く天使をチロリと冷たい視線で見やって、シュラはその右手を動かす。

(ああ。早く触れてください。貴方が真に“資格ある者”なら、これごときで消えはしない)

期待に染まる緑の瞳が見つめる前。
シュウ、と何の抵抗も無く、檻の内へと入り込む、紋様のある美しい右腕。
予想以上の光景に、ザフィエルは声を無くし。
そのまま光の格子をくぐり抜けた悪魔は囚われの配下を大切そうに腕に、抱く。

「すま、な、い、シュ、ラ」
「いいから、ロキ」
しゃべるな、と抱き上げられた間近の距離で、金の瞳で微笑まれて。
軽く口付けられて、回復の気を注ぎ込まれて。

ああまた“落とされた”とロキは心中で苦く笑う。
何度、“私”はこの瞳に捕らえられれば、気が済むのかと。

「…さすがに、暁の星と称えられた光の天使。ルシフェル様の最高傑作、であられる」
以前のデータでは、光の檻の中では身動きできなかったと、出ておりましたのに。
(どのような秘策を使われた、ものか、ぜひおうかがいしたい、ものです)
私の部屋に閉じ込めて、と、心中の欲を見せぬまま、ザフィエルはシュラへと念を押す。

「ですが、入られた上はお分かりでしょう」
その檻は入るのは易いが、出るのは難い。如何に貴方様が強かろうと無傷では出られまい。
ましてや。その北欧一、闇に近い魔王を抱えてなど、不可能。

「よしんば貴方様だけは出られたとしても」
その腕の中の女悪魔は光の力で燃え尽きておりましょう、から。




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後書き反転

もしや今作で一番オイシイのって・・・ロキ?