シセイ 05



(どうだ。ヤツの弱みは見つかったか)
(…17歳ぐらいの短い黒髪、灰色の瞳の少年)
(何をふざけている。それはもう分かっていると言っただろう)


分かってないよ。アイツはそれ以外、弱みなんて無い。
しばらく付き合っていて、分かった。アイツは何も執着が無い。
食うことも寝ることも愛することも、多分、生きることさえ、執着していない。
執着していないのに、死ねない。不老不死だから死ねない。逃げられない。この地から。

そんなアイツが大切なのはこの国。守るのはこの帝都。
多分あの少年がこの国をこの帝都を愛していたんだ。だから、ずっと守ってる。
彼だけを見つめて、ずっと待ってる。何かを待ってる。絵の中の彼だけを見つめて。


(絵の中?何のことだ?)


書棚の裏。隠し扉の奥。秘密の部屋。
部屋中を埋め尽くしていたのは、黒い髪、灰色の瞳の少年の肖像画。
微笑んでいるもの、遠くを見つめているもの、何かと戦っているもの。
叫んでいるもの、黒猫を撫ぜているもの、手に赤い炎をそのまま掴んでいるもの。

きっと、ライドウが描いたんだ。すげぇ。上手い。…あれ?でも、これ全部。


(未完成の絵?)
(不思議な刺青が入ってた)


太い線。細い線。神社かどこかで見たような模様。その黒いカタチに添うように、光るような色合いで描かれた碧。絵によっては、その碧は赤だった。でも。


(ふむ。興味深いな。だが、なぜ、未完成だと)
(刺青がどれも途中まで、だった)


本当はきっと全身に入るんだ。あの、綺麗な不可思議な模様。
魔物のようで恐ろしいのに、尊く、神聖で、目が離せない、そんな不思議な刺青。


よし。とりあえず、その絵を盗んで来い。一番新しいやつか、一番出来が良さそうなのを、と
命じる飼い主の声に条件反射で諾と返しながら。その“一番新しいやつ”を思い出して、
俺は、ぞくりと、恐怖か歓喜かどちらによるものかすら分からない鳥肌を立てた。


自惚れかもしれない。思い込みかもしれない。きっと気のせいかもしれない。でも。


その一番新しい、少年の絵は、どこか俺に似ていた。







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