シセイ 06



「どうですか、アイツの首尾は?」
「とりあえず、順調だ。死んでいない」
「なるほど。さすがに“弱点”。…結構、長いですね」
早いものは一月ももたずに、いや。

「女間諜に至ってはたった一日で首を括ったものまで」
「らしいな」

神と呼称されていても、所詮は若い男だ。当然美しい女には弱いだろうと。
「送り込まれた、容姿も能力も自他共に認める豪の女傑共が、次から次へと」
あの神を溺れさせるどころか、自分が先に溺れて、自滅する。そして。

ある者は、腹心の部下に全て裏切られた末に、その神に向けた刃を自分の心臓に突き立て。
ある者は何十人もの手駒を失い、怒り心頭で直接その神に対峙した三日後に自殺した。
いずれも、自分の全ての財産をこの国の恵まれない子供たちへと譲り渡して。

“その東国の神には、誰も触れられぬ。 その意に反して触れしモノには”

「・・・くそ。タタリ、だと」
誰が認めるものか。そんな非科学的な力がこの現代に。

必ず理由がある。必ずあの狐の尻尾を捕まえてみせる。何人の犠牲を出そうとも。




◇◆◇




「ライドウってさ、刺青、好きなの?」

単刀直入な問いにクスリと嗤い。
刺青?少なくとも、私は入れていないが。確かめてみるかいと微笑んで袂をくつろげる美しい男の前で、いいよ。そんなこと知ってるよと少年は顔を赤らめる。

(知ってるよ。あんたの白い肌にはどこにも、傷一つ、ついてないってこと)
(知ってるよ。いくら痕をつけても、数時間も経たぬうちにそれが消えてるってこと)

――― どんなに俺の痕をつけても。あんたは綺麗さっぱりそれを、消して、しまう。

方向が変わった己の思考に気付いて、少年は慌てて軌道修正を試みる。
(調べてみたけど。あんな刺青を入れた彫師は居なかった。少なくともこの都には)

<ほう。なるほど、美しい模様だ。ああ、でも。こんな色は私には出せない>
<これは!本物を見たのかい!?・・・ああ、絵か。そうか、そうだろうね>
<全身、それも顔までこんなに……実物が居るなら、ぜひ見てみたいものだが>

そんなふうに。俺が模写したその絵を見ながら。
どの彫師も惚れ惚れとそのカタチを評した。その美しさと潔さを。

そして、俺は。

絵を持って来い、と命じられてから一週間。俺はその命令には従えなかった。
隙が無いんだと言い訳して、でも、それは嘘だった。

まだ。まだ持ち出したくない。あいつの手から離したく、ない。

だって、俺に似たその新しい絵にはまだ一つも。一筆も。刺青は描かれて、ない。
描いて、ほしい。俺にも。

だって。あの模様は。あの全身を伝う鎖は。あんたの執着だ。ライドウ。そうだろ?




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