シセイ 10



――― また、アレが生まれるまでおあずけだ

”また、アレが生まれるまで”
救いのような呪いのような、その悪魔の王の一言に僕の残る感情はしがみついた。

待てる。彼の与えたこの呪いのような肉体なら。きっと待てる。また会える。
新しい彼に僕の記憶は無くとも。彼がもう僕を望まなくとも。
会える。

ああ。今なら、貴方の気持ちが分かる。
僕に貴方の記憶が無くとも。僕がもう貴方を望まなくとも。
ただ、僕に存在してほしかった。そんな、哀しい愛情が、今頃、今更に、痛いほど分かる。



「いつ?…いつまで、待てば、また彼は」
「それがねぇ。分からないのだよ」

「分から、ない?」
「アレは特別な存在だからね。いつ生まれ出でるかは分からない。
おまけに、外見だけでは、その存在が分からないようになっている」

まるで保護色のように、他の人間と同じような色でその輝きを隠して生きているよ。
そう呟かれて、ライドウもあの病院で初めて出会った頃の彼を思いだす。

(あのときは、そう、確かに。珍しくは在るが弱い凡百の存在としか思わなかった、のに)

「まあ強いて言えば、アレは生まれながらに呪いを受けているようなものだからね」
死んだほうがまし、と思える過酷な人生を生きている。死ぬこともできずに。

ほら。シュラもそうだったろう?と、懐かしいその名を魔王が呟き。
その名を他者が音にするだけで、キリリと痛む心臓を抱く人間は声も無く呻く。

「だが、だからこそ候補者は強い」
「候補者?強い?」
「マガタマの痛みに耐えられるほどに、強い」

大抵はその痛みだけで死んでしまうのだよ。ヒトは弱いね、と微笑む声は冷たい。

「ほら、アレは強かっただろう?哀しいほどに」
無理やりヒトのカタチから引き剥がされても、それでも“生”を選ぶほどに。

「同じ種族だったモノから、悪魔と断じられ。半殺しにされてもソレを愛し続けられるほどに強い」

クスと嗤う声にはもう何も感じない。
その糾弾は彼以外に為されても、何の痛痒にもならない。

「では、どうやって彼を見つける?」
「試すしか、無いね」
「試す」
「マガタマを入れてみるのだよ」
「なるほど、だから」



――― 候補者。




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「怖すぎるから早くnext出してー」「いいよー」「もっと怖いじゃないのー!」