「あれ?」
「ああ。やっと、起きた」
真上で柔らかく孤を描く黒い瞳に、今更ながらに俺はドキリとする。
「俺…、何を」
「悪い夢でも見てた?」
「夢?」
「うなされてたよ。ひどく」
だから起こしてあげたんだけど。ふふ。寝ぼけた君も小さい子供みたいで、かわいいよ、と
クスと笑う美しいそいつの顔につい見惚れる。……でも。
夢?
あれが夢?
「どうした?まだ目が覚めない?」
じゃあ、今日は私が珈琲でも淹れようかと、優しく俺の頬を撫でる美しい白い指。
(白い、指)
(白い指が、操る銀。…銀の管。溢れる緑。線を描く緑の光)
(一瞬で幕を下ろした惨劇、白い地獄の天使、永遠に続く痛みの煉獄)
頭の中を走り抜ける記憶の断片。
どこかピースがはまらないソレを無理やりに繋げて、俺は叫ぶ。
「ちがう」
「夢、じゃない」
「あれは、夢じゃない!」
◇◆◇
「ほうら、よく見ておいで。お前たちもじきに同じようにしてやる」
暗い部屋。監禁された“材料”。怯えて震える彼らの前で、俺は一番に床に押し付けられて。
「きっと痛いよ。とっても苦しいよ。ああ、可哀想にねえ」
わざと。
そんなふうに、わざと恐怖感を煽って、その不幸を煽って、反抗のココロを奪って。
この豚のやることはいつも同じだ。俺はそれを知ってる。知ってるのに、今まで。
「ほら。お前ももっと泣け。叫べ」
(誰が)
そのブヨブヨとした醜悪な指を俺の頬に近づけようとするソイツの顔に、ペッと唾を吐いてやると、
一瞬その顔が更に醜く歪み。
「そうか。お前がその気なら」
――― してやれ、長く苦しむようにな、と命じて、その豚は傍にある例の絵の肌を撫でる。
(ち。ご丁寧に、舌を噛めないような猿轡をかましやがって)
覚悟していても、分かっていても、それでも、この後に来る長く続く絶望に瞳を閉じようとした瞬間。
「な。お。お前ら、何を」
「ひ、ひぃっ?!」
豚と、その手下どもの悲鳴にもう一度目を開いた、俺の視界に入ったのは。
何十体もの悪魔を従えた黒い神――― 。
(あれは、あんただ。あんただった。ライドウ)