「東国の鴉は、三本の脚を持つ」
その場を支配した、
「かの国の安寧たる行く末をしろしめす、黒き鳥は」
痛いような沈黙を破ったのは、
「四匹の狐を飼っている」
幼く聞こえるほどの澄んだ音。
「三本の脚に四匹の狐」
古い文献でも、暗誦するかのように、
「数が合わぬ」
不可思議な言の葉を。
「故に一匹は、繋ぐこと
能わず」
彼は紡ぐ。
「脚に縛られぬ狐は最強」
そして、そっと目の前の男の頬を、
「最強の獣が冠する名は”死”」
指先で、触れる。
「死は、月夜より、美しい
※」
様々な束縛に囚われて動けぬ男の、戸惑う瞳を。
「美しき、死の遣いよ」
あどけない笑みで、彼は覗き込む。
「我に、汝の真の言霊を示せ」
◇◆◇
「ねえ。ライドウくん」
……本当は、何が欲しいの?
何を、言われているのか、分からなかった。
でも、
ただ、一つだけ、は、分かった。
この人は、夢ですら、僕の気持ちを信じては、くれない。……僕が、”狐”だから。
「君が欲しいのなら、何でも、あげるよ。それが君の為になるのなら」
……だから、鴉の目的のために、嫌な相手に抱かれる必要なんて、無いんだよ。
呆然とする僕の視界の中で、優しく微笑む、瞳に、そう、確信する。
恐らく、この人は、”僕すら知らない僕”を知って、いるのだ。
「本当に、欲しいもの、言ってみて」
……俺に、嘘は通じないから、本当のことだけ、言って。
何を、答えていいのか、分からなかった。
でも、
ただ、一つだけ、は、分かった。
本当に、欲しい、もの。昔も、今も、それは、きっと、変わらない。
「僕は、貴方が、欲しい、です。 由良、さん」
――― 貴方だけが、欲しい、です。
◇◆◇
夢が覚めてしまう、前に。
優しい彼が消えてしまう、前に、慌てて紡いだ、”真の言霊”の報酬は。
心底、驚いたような瞬きと、
ありがとう、と。何故か哀しげに歪む笑顔。
そして。
柔らかく降ってきた、冷たい、唇。
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※「死は月夜より美しい」:日本を代表する哲学者、西田幾多郎様が愛娘に与えた言葉。
管理人の脳内で、ライドウのイメージベスト3に入る、恐ろしい言葉。