cage 〜檻〜 2


触れても、よろしいのですか、と。

擦れた声の問いに、ゆるりと眼を閉じることで答えとした主の服を、天使がくいと、くつろげると、
以前に自分がつけた愛撫の痕がうっすらと残るのが見える。

他者がつけた痕が無いことを無意識のうちにも確かめながら、天使は愛する主の耳の下にそっと
口付けてチロリと舐めあげる。そのまま、美しい線を描く首筋に沿って、かすめるように唇をゆくりと下降させ、やがて辿りついた窪みに舌を丹念に走らせると、微かな甘い声が漏れた。

くす。
本当に、感じやすくていらっしゃる。
今日は、焦らして、さしあげるのも、良い、か。


寝台のシーツを引っ掻くように動く手を取って、愛しげに口付ける。
それだけでも、ふるりと揺れた肢体を熱い瞳で見つめながら、神の両手を恭しくまとめて、その頭上に縫いとめると、え、と、 驚くような瞳が天使に注がれた。

何を、と問いたげな唇に優しく口付けながら、そのしなやかな身体に覆いかぶさると。
主の身に過剰な負担がかからぬように気遣いつつ、空いた手で、腕で、胸で、脚で、翼で、唇で。
・・・天使は、己の持つ全てで主の悦びを生ませ始めた。



◇◆◇


神の両手を左手で押さえ、空いた右手の爪の先で、神の左手首から腕に沿って、すぅと降ろす。
く、と耐えたような声を満足げに聞きながら、のけぞった首にあるアダムの林檎を舐めあげて。
脇に辿りつき、脇腹へと移動する駄賃に親指が胸の先端を掠めると、ひくん、と神は震え。
それを知りながら、美しい陰影を見せる肋骨を 5本の指先でなぞり、臍を可愛がり、そして。
更に下へ、神の中心へと降りる右手は、しかし、唐突にその動きを止める。

「・・・あ」、と。

不安と(おそれ)と期待を裏切られた短い声を上げる美しい唇に宥めるように、また口付けて。
くい、と天使は神の脚を開いて、己が体をその間に、そろりとねじこんで。
共に熱を持ち、硬度を上げた互いの中心を、そっと、合わせる。

「まだ、触れてもおりませんでしたのに」

もう、こんなに、と。己を棚に上げた甘い揶揄を。
口付けの合間に唇の上で囁くと、不機嫌そうに神の眉間が寄り、象牙の肌が赤く染まる。
ふいと横を向いた顔の、目の前にある頬に口付けながら、天使の指は神の胸へと戻る。

既に、その存在を示す小さな朱鷺色の玉は、その周囲をそろりと指先で撫ぜあげられて。
何度も、何度も周りのみを弄ばれて。苛立ちと期待と得られぬ快感に凝ってゆく。

熱を増す声と、艶を増す顔。絡みつくような脚の動きを見て、天使は一つの頃合を知る。

くい、と、指先で、接触を希う尖りを主張する乳首に触れると。
それだけの刺激でも、悲鳴のような喘ぎ声を上げて主は首を振る。

その甘い声と表情に煽られて。堪らず、もう片方に舌を絡め、舐め上げ、つつき、吸い上げると。
右手の指先に弄ばれる片割と連動した快感が襲ったのか、更に甘さを増した声を上げ、
悩ましげに体をくねらせて、それに耐えようとする神の姿は。
喩えようも無く淫靡で美しい。

「・・・う、ん・・・っ。・・・あ、それ、や、だ・・・ぁ」

甘く擦れた声の拒否は、許可の意。
正確に忠実に主の命を聞き分ける下僕は、神への奉仕を止めようとはしない。

やがて、既に力も入らぬと知り、解放していた神の左手を取り、恭しく天使は口付ける。
選んだのは、薬指。
この愛しい神がヒトとして育った地の慣習で、もっとも心の臓に近いとされたというそれ。
神の御前にて永遠の愛を誓う際、相手のこの指に輪を嵌めることで、その意を示した、と。

チリ、と天使らしからぬ胸の痛みを覚えながら、ウリエルは神のその指に舌を絡めさせる。

・・・貴方が何度も転生を繰り返そうとされるのは。
本当は、「何か」を探しておられるから、ではないのですか?
――― この指を支配する「誰か」を。


胸の痛みを紛らわすために、
神の指への愛撫はより淫猥なものとなる。

・・・私は、知っております。我が、神。
これまでの、どの生に、おかれても。
貴方が、本当は、誰一人、愛してなど、おられなかった、ことを。


優しく咥えられ、甘く咬まれ、舌を絡められ、きつく吸い上げられる、その天使の執拗な動きに、
違う何かを嫌でも思い起こされるのか、神の喘ぎ声はより甘くなった。



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※「アダムの林檎」=欧米では「喉仏」の意味。

アダムが禁断の木の実を食べたときに、破片が喉につまって出来たとされ、
故に「原罪」の証、と見なされることも、あるとか。
ええと、「深読み」は、していただいても、構いませんです・・・。