cage 〜檻〜 3



天の使いとして長く存在した彼はよく知っている。
時として、神とは悪魔よりも残酷なモノであることを。


長くその身を悪魔の(しもべ)に落とした彼は、また、よく知っている。
往々にして、悪魔は天使よりも美しいモノであることを

そして。

幾度もの転生を追いかけ続けた主をその腕に抱く彼は、誰よりも、よく知っている。
神よりも悪魔よりも恐ろしいのは。

この腕の中に居る「人」であることを。



◇◆◇



「俺を、潤せ、ウリエル・・・ッ」

じわり、じわりと焦らしながら追い詰める愛撫に、業を煮やし。
擦れた甘い声で、命令を下す神に。
仰せのままに、と、満足そうに笑んだ天使は、主の中心へとその舌を進めた。


白い蜜を滴らせる、しなやかな主の根を愛しげに視姦して、
張り詰めた筋を、生えた地面の方から、ゆっくりと優しく何度も舌先で舐め上げる。
先端の膨らみの縁に辿りつくと、ゆると、その周を舌先で弄ぶ動きをほんの数度、繰り返すだけで
耐えられぬように、断続的にあがる、押し殺した主の悲鳴を聞き。
制御を得る為に、ふわりと根を包み込んだ左の掌にドクンと響く脈に熱を上げられながら、
その美しい唇に主の中心の先端を咥え込んだ天使は、思うさま、舌を走らせた。


「う、あ・・・っ」

これまでの優しさを裏切るように、激しく舐めあげる動きは愛しい主の感覚を急速に追い詰める。
そうと知って、尚、屹立の麓にある嚢にまで指を走らせて撫で上げる天使の表情は、
だが、その行為に似つかわしくない清らかなものだ。





貴方におかれては。
全ての濁は清となり、醜は美となり、淫は聖となる。

なんとなれば。
貴方が私の唯一の神であり、法であり、コトワリであられるの、だから。







「心より、お慕い申しあげております。我が、神」
暫しの後、神の限界を知った大天使はニコリと笑んで、今更に過ぎる祈りを捧げ。
ようやっと束縛し続けた左手を緩めると、神の中心を深く口内へと咥え込み、その肉を愛しんで。

短い叫び声と共に、待ち構えたように溢れる白い樹液を味わい、コクリと嬉しげに嚥下した。



◇◆◇


は、あ、と荒い息を吐いて喘ぐ主の、くたり、と力の入らぬ体を腕に抱き上げ。
何度も、頬に、唇に口付けながら、膝の上へと降ろす。

達せられた直後の、どこか甘い、心を蕩かすような表情を見られないのは残念では、あるが、と
思いながらも背中から抱き込んだのは。一つにはまだ触れていない、敏感な背中を愛するため。
背骨の中心に口付けて、何度か舌を走らせるだけで、再び主は甘い叫び声をあげ始める。

その責めを続けたまま、神の腕と脚を器用に絡めとって、無防備な身体を大きく開けさせると、
天使はわざとパサリと翼の音を立ててみせる。
ピクリ、と反応する神の身体はその悦びを既に知っている、故。

「あ。やぁ。・・・そ、れ、ダメ、だっ・・・て。ウリ、エル」
くすり、と音も立てずに天使の口元は笑う。

――― 心からのお言いつけなら、聞きもしましょうが。

「ダメ、だ。お前の、白い、翼が、」
よご、れ、る。

――― そんな理由では何の歯止めにも、なりはしません。我が神。

「・・・貴方が(もたら)すものが、私を汚すことなど、何一つありはしません」

――― むしろ、よごしてほしい。そう、ずっと。願って、 いるのに。一度も貴方は私をよごさない。

言いながら、思いながら、天使はその白い翼で、神の体を包むように覆う。
大切な、宝物を守るように。誰にも、その美しさを見られないように。覆い隠す、ように。
それは、白い翼でつくった、神を閉じ込める檻。

そしてその檻の中で、天使はその翼の先を、主の身体へと、そっと、そわせはじめる。
その感触は、指よりも繊細で、舌よりも柔らかく、・・・だからこそ。
狂おしいほどに、もどかしく感じさせる羽根の動きは主の快楽を違う次元へと誘う。

・・・初めは、偶然。
うっかりと触れた羽根の、その感触に、思いのほかに甘く反応された主に気付いて。

今は、必然。
うなじも、胸も、脇腹も、脚も。未だ、白い樹液を甘く垂らす男根も。
守るようにとらえるように包み込んだ白い羽根で、掠めるように触れていく。
焦らすように、一つずつ。追い詰めるように、全体を。

その行為は、自分の羽の中に、美しい猛獣を閉じ込めたかのような錯覚をウリエルに起こさせる。
――― もう、誰にも奪わせない。もう、二度とこの腕から離さないと。
その刹那の幸福感は大天使の明晰な頭脳を酩酊させる。

ダメだ、という制止の声が、意味の無い甘い叫びに変わったことを確かめて。
天使は休めていた手と舌の動きを再開させる。感じてのけぞった首に舌を走らせ、今にもはじけそうな神の中心を左手で握りこんで止め、右の指先でくるりとその先端を何度もなぞる。

いかせて、と。言葉にならぬ声が聞こえたような気がするが。
まだです、と。言葉にならぬ声で返してみる。

そう、まだ、貴方は満たされておられない。
貴方の内が空で、虚ろである限り、貴方は他者を求められる。
そして、貴方を満たす何かを、誰かを探す為に、この地の全てを捨てて旅立っていかれるのだ。
この腕を解き、この檻を壊し、この心を砕いて。

――― 私を、見放されて。



個体としての在り様を考えれば、これ以上も無いほどに傍に在りながら、天使の心は冷える。
ただ上がる一方の熱、主と自分の身体から発せられる熱さを知覚しながらも、失う恐怖に冷える。

ならば、もっとお傍に。もっと、熱を、と。

主の樹液を纏いつかせた右の人差し指をそろり、と、主の後腔に触れさせてみる。
ああ、いやぁ、と。上がる声を聞きながら、二つ目の関節まで挿入させ、その狭隘さに眉を寄せ。
一度引き抜くと、あぁ、と落ちる安堵の声に混じる不満の色を聞き取り、
今度は自らの唾液と、潤沢な樹液を中指に絡めて、再びゆっくりと主の内へと進めさせた。



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