cage 〜檻〜 5


吹かぬ空気が澱み、流れぬ水が濁るように。
この美しい方もまた、(とど)めれば。おそらくは。

そうと分かっていて、尚、束縛し続けるこの腕と翼は、愚か、だと、それ以外に表現もできぬ。

ああ、でも、この方が私のためだけに澱み濁り堕ちてくださるというのなら。
この身も魂も、何度、汚泥にまみれさせても、構わぬ、ものを。


翼の檻を解き、仰向けに横たわらせた、神の上に天使はそっと覆いかぶさる。
潤いを求めるように、ちろ、と舌で湿らされた尊い唇に軽く口付けて、我が、主と、呼ぶと。
開いた瞳に映る、黒く染まった空に、何故か不安を感じて天使はゾクリと背筋を凍らせる。

故の分からぬ不安を打ち消すように、神のしなやかな脚を撫で上げながら、屈曲させて。
埋めろ、と命じられた、蟲惑的にひくつく洞に、己の中心を。
たらり、と白い欲を垂れ流すそれを、あてがって周囲をなぞってみる。
ひくり、と喉が、胸が、腰が、そこが動きを返すのを見ながら。
じわり、と力を増して、内へと進ませる。歪む神の顔を見つめながら、ゆっくり、と。

はやく、と願う主の身体は、その緩やかな侵入に腰を揺らめかして抗議をするが、
その速度が天使の持つ楔の容をよりリアルに神へと知らしめることもまた、真実で。

ゆっくりと埋められる洞の感覚に耐えて、喘ぐ口から覗く紅い舌が躍り。
白い敷布を掴む手がキリ、と握り締められる、その淫蕩な仕草を見つめながら。
天使が神の中を楔で埋め尽くすと、は、ぁ・・・と詰めていた息が二つの美しい唇から零れた。

突き上げたい衝動に耐えて、神の吐息を盗みながら、唇の上で天使は祈りを捧げる。

「私の、全ては、貴方の、モノです。我が、神」
どうか、お受け取りになってください。この身も心も魂も。何も、かも。

その心の底からの言葉に。
己の持つ、深く暗い虚の一部が、埋まっていくのを感じて、神は固く閉じていた瞳を再び開き。
その瞳に走る、金色の光に、ウリエルは気付く。
まさか、また、悪魔の態に?と感じた驚きは、暫しの後に響く轟音に納得する。

稲妻を映すこの懐かしくも愛しい金の瞳は、天からの警告か、地の底からの嫉みか。
天使の身でありながら、神を想い、神を望み、神を捉えて放すまいとする、分不相応な私への。


「・・・お許しを。動き、ます」

「・・・あ・・・っ」

くん、と軽く突き上げて、浅く引き。
既に知る、神の感じられる所を掠めては、その欲を煽り。

「あ、あぁ・・・っ、ウリ、エル・・・ッ」
馴染んでこられた、と気付いて、ぐい、と重く突き入れては、甘い悲鳴を上げさせて。

怒る天を背に、喘ぐ神を胸に、嫉む地を床に。
天使は嬉しげに、誇らしげに、腰を揺すり、舌を絡める。

これが罪だというのなら。
その罰として、雷で打ち殺されるならば、そう、されれば、いい。
もう、私には天にも地にも、この方以外の神は、居ない。
この方に溺れながら、この器を壊すことができるなら、どれだけにそれは。
――― 幸福、だろうか。


愛しさに質量を増し、速度を上げる天使の動きに、神はその意識をほぼ手放し、悲鳴を上げる。

絡みつく内は熱く、柔らかく、欲を誘い、熱を上げ、快を喚び。
意味の無い言葉を叫び、切なげに首を振って、達しようとうねる愛しい肢体を見て。
では、まずは、一度。と天使は微笑み、神を高みへと導いた。



◇◆◇


かくりと力を失い、死んだように身を横たわらせて。
それでも未だ熱が退かぬ神を冷やそうとでもいうのか。ザ、と雨の感覚が頭上で起こる。
それに気付いたように、虚ろに開く神の瞳に口付けて、再び目を閉じさせる。

ああ、どうか、今だけは。他のモノにその御心をお移しにならずに。
貴方を潤すのは、雨ではなく。私。


「う・・・んっ」
楔をゆるりと抜かれ甘い溜息をつく主を抱き上げて、うつ伏せに体勢を変えさせて。
他から覆い隠すように、背中から抱き込んだ天使は、かつての黒い角があった部分に
愛しげに舌を走らせ、吸い上げ、印を付ける。

清めさせてください、と、敏感な耳朶に囁いて、愛撫を背中へと移動しながら。
・・・え、と怪訝そうに反応した主に、私が、穢した、ココを、と、もう一度囁いて。
先程まで繋がっていた箇所に天使の中指が潜り込み、再び、背に舌が踊り。
胸にまで残酷な指が触れると。
「い、や・・・っ。だ、め・・・ぇっ!」
惑乱したような悲鳴が上がる。

だめ、と言いながら、きゅう、と締め上げる甘い内とトーンを上げる声に煽られながらも。
それでも一度、指を引き抜いてやると、酸素を求める荒い呼吸の音が室内に響く。
やがて、そのリズムが徐々に落ち着くのを確かめて。
申し訳ありません、指はお嫌でしたか、と嘯きながら、主の細腰を持ち上げる。

「やっ。それ、やぁっ・・・っ」
ピチャリ、ピチャリ、と上がる水音は、聴覚を犯し、羞恥を誘い。
達したばかりの感じやすい体に、熱い舌の触感と共に、凄まじい快感を落とし込む。

「い、や、ぁ・・・っ!」
逃げようとする身体を引き戻され、感覚を散らすために敷布を掻く指を。
いけません。爪を傷められてしまいます、と、後ろ手に束縛されて。

清める、と言ったとおり。
中にまで潜り込み、掻きだすようにすすり上げるように動くソレは。
快感を与えると同時に、そこの空虚さを間隙を空漠を、若く美しい神に知らしめて。
気が狂いそうなほどに、体を疼かせる。

失われたモノが、
もう一度、欲しい、と。
この虚ろを、埋めて欲しい、と。

甘く切ない鳴き声で、主に懇願されて。
この神の為のみに存している下僕に否やの選択は存在しない。

「あっ、あぁ・・・んっ!」
激しく後ろから穿たれて、深い満足感と鋭い快感に神の背が美しい弧を描く。
締め上げてうねる淫靡な動きに耐えて、バサリと喘ぐようにはためく翼から落つる羽根は。
白い雪のように降り注いで、紅く染まる象牙の肌を美しく覆う。

ああ、どんな態を採られても、貴方はいつも、美しく。
どのような痴態を見せられても、貴方はいつも、汚れない。
これほどに、相手を狂わせる極上の御身をお持ちでありながら・・・。


「・・・あぁっ!・・・ぃ、ぃぃっ!」
切ない甘い声に、絞り上げるような内の動きに、身も心も制御を奪われて。
再び、天使は、神を、穢した。



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あんなに最強で最悪の悪魔なのに、つい、雌的性質を求めてしまうのは。
あまりにも深い、虚で空ろな洞を持つ故、な気が、しませんか?
つまり、埋められるだけの雌が居れば、雄でもいいと思うのですが。