Auf Flügeln des Dämons 2



『また、厄介ごとを』
引き受けおってと、入浴の間、外で待っていたゴウトが呆れたように言う。
毛並みの乱れからして、どうやら、林を舞い飛ぶ蝶を追って、楽しい時を過ごしたらしい

そのゴウトとライドウの前で、子供たちの「依頼」交渉は続く。

近くの森にある、子供だけが知っている秘密の遊び場。
そこに数日前から、化け物が出るのだと、彼らは言う。
大人に言っても、どうせ、山犬か何かと間違えたのだろう、大体その付近は神域で出入り禁止で
あるのに、どうして入ったんだ!と怒られるばかりで、まったく取り合ってもらえないと。

「絶対、山犬なんかじゃ、ないって!」
「うん。あんなに大きくて白くて毛が長い山犬なんて、見たこと無い!」
「尻尾も変な形だったよね。ヤマカガシのでっかいの、みたいな」

その形状を持つ悪魔に思い当たり、ゴウトの髭とライドウの眉がピクリとする。
((ぬ。・・・ケルベロスか?))
(おそらくは)
((こんなところでか!異界化の気配は無いぞ!))
(異界、もしくは魔界と通じる穴があるのかもしれないが)

「お前たちの誰も、怪我はしなかったのか?」
「え、あ、うん。俺たちは」
「アイツ、怖そうな顔はするけど、何もしなかったもんな」
恐ろしげな歯を剥いて、威嚇はするが、襲い掛かったりするわけでは無いのだと言う。

「・・・俺たちは、ということは、他の誰かは怪我をしたのか?」
「うん、そう、それで、お願いがあるんだ!」
ライドウの質問が話の焦点に入ったらしく、真剣な声で圭太が言い募る。

「あ、あのさ、一番の悪ガキの太郎が」
相手が襲ってこないと分かった途端に、しつこく石を投げつけて・・・怒らせた。
「で、急に飛び掛ってきて、もう俺達みんな噛み殺されるかと思ったら」

「・・・は?・・・天使?」
まさかこの子供達の口から、そんな単語が出てくるとは思っていなかったライドウは問い返す。

「ちがうよ、ヨウセイとかいうヤツだよ」
「テングじゃないかな。テングも羽根、あるっていうじゃん」
「鼻、長くなかっただろ!下駄もはいてなかったし!だいたいテングって男だろ!」
「そ、そう・・・だよな。すごく、きれいな女の人、だったよな」
「えー!ちがうよ、男の人だったよ、この兄ちゃんとおんなじぐらいキレイな」

その後、延々と合致せぬ3人組の"情報提供"に、ライドウとゴウトは共に諦めの溜息をつき。
2日後までは宿に逗留していることを告げ、出来る限り調べてみるから、また明日になってから、
会いに来るように伝えて、子供達を家に帰した。



◇◆◇



『・・・要は、翼のある美しい人型の生き物が現れて、身を挺してその獣を止めてくれたと』
「そういうこと、らしいな」
『とっさに間に割って入ったせいで、その生き物の翼が傷ついたと、言っていたな』

(俺達のせいなんだ。だから、謝って、コレ、渡したいんだ)
(これ、は?)
(ウチに代々伝わる傷薬!よく効くんだぜ!!)
(あのお姉ちゃん、しばらくは危ないからココに近寄っちゃダメだよって、笑ってくれたけど)
(だから、お兄ちゃんだって!・・・でも、うん。あんなひどいケガして、大丈夫、かな)
(キレイだったよなー。にっこりされたとき、もう俺、メガミ様って、こんなかなーって)
(だから、お兄ちゃんだってば!)
(お姉ちゃんだって、言ってるだろ!!)

延々と続く口論を思い出して、ライドウとゴウトのこめかみが鈍く痛む。

「幸いなのは、ケルベロスがその天使だか妖精だかを守護しているようだった、ということか」
『見ず知らずの子供を、身を挺して守るような主人なら、さほど問題は発生しまい。・・・後は』

あの子供達の純粋なんだか不純なんだか分からない望みを叶えてやるか、どうかだな、
と黒猫が溜息をつき、それを聞いたライドウが少しだけくすりと笑う。

「魅了、されていた、ようだな」
『薬は一種の口実。とにもかくにも、"もう一度会いたい"のだと顔に書いてあったわ』
最近の子供はませておるわ、と呆れたように言いながら、ゴウトは少し嬉しげな心持になった。

とても、とても久しぶりに。
作った笑いではないそれを、ライドウが浮かべたことに気付いた故に。


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