Auf Flügeln des Dämons 3



地獄の番犬が守護する、女神とも見紛う、性別不明の美しい悪魔、か。
しかも、一瞬で魅了される優しい笑顔を持つ。などと。
――― まるで、どこかの、誰か、のようだ。

夜になり、月影が白樺の幹を通して、美しい陰影を描く道を歩きながら、
ライドウは、ふ、と皮肉な笑い声を落とす。
何を聞いても彼につなげようとする、この己の愚かしさは。正しく、不治の病であると。

だが、とライドウは自らの愚かしさに自縄し、自縛する。
だが、彼には翼は、無かった。
幾度か、あの美しい黒と緑の色彩を放つ背中を見ながら、翼のようだと思ったことは、あるが。

『ライドウ、どうやら、ここだ』

ライドウ以上に夜目の利くゴウトが、ひそりと呟き。
瞬時に、優秀なる探偵助手は己の雑念を振り払った。



◇◆◇




――― 神域、か。確かに。
白い紙垂(しで)を垂らした注連縄。 常世と現世を隔てる結界。

それを境界としたその向こう側は、明らかにこちら側とは異なる大気が見える。
魔の気配は、無い。

「召喚はどうする」
『ここまで神気が強いと、仲魔によっては消耗が激しい。まずは様子を見ろ』

こく、と肯いて、ゆっくりとライドウがその地との境界を越すと、ピリと肌に感ずるほどの鋭い感覚を
受けた。なるほど、子供達だけの遊び場、というのもよく、分かる。

『神の内、であるからな』
普通の大人には入るだけでも苦痛であろう、とゴウトは言い。

「いずれも、7歳を越していない、か」
ライドウもまたそれに同意した。

月光を頼りに、細い獣道を登ること、数分。突然に開けた所に出る。

『これは』
「・・・」

滾々と湧く、夜目にも美しい聖なる泉。
月を映す銀の鏡のようなその向こう岸に、大きな神木らしきものがそびえ。
涼やかな風にさやさや、と音を立てて、澄んだ空気をさらに透明にしているように、見える。

あまりにも美しい光景。その神気の濃さも相まって。
『さながら小蓬莱、だな』
無言でそのゴウトの言を肯定したライドウの耳に、微かな呻き声が、届く。

――― え?

その響きは苦悶を示すのに、それでも、甘い、と感ずるほどの柔らかい、透明な、音。

ざわり、とライドウの身体中が反応し、音の主を五感が凄まじい勢いで探索し始める。

聞いたことが、ある、甘い、音。
――― まさか。

『あそこか』
ゴウトとほぼ同時に見出したそれは、神木の根元に横たわる、影。
苦悶するように、時折バサ、と翼の音が聞こえ、苦しげな声も、また、そこから。

『む、傷を癒せぬままで、あるか』
血の匂いがする。腐食、もあるようだと眉を寄せるゴウトの言葉をどこか上の空で聞き。

やはり、この、声は。
だが、また、罠では、と。

逸る心と、警戒音を鳴らす理性。両者に揺らされながら、ライドウは歩みを進める、が。

「「ソコマデダ。デビルサマナー」」

突如、影のように現れた、白い魔獣は彼の美しい主を、守るべく。
彼らの前に静かに立ち塞がった。


next

back


GIFT部屋top




ゴウトさんの台詞を書きながら、懐かしの「ルースの小瓶」を思い出しました。

・・・って、分かる方が1割も満たないであろうネタを・・・。