Auf Flügeln des Dämons 8



「・・・ん」

ゆっくりと金色の瞳が開き、目の前にある黒い瞳を見つけて、嬉しそうに笑う。

「ライ、ドウ」

名を呼んで、手を、伸ばして。そっと、その白い頬に当てて、指先ですい、と撫であげて。

気持ちよさそうに目を閉じた相手を満足そうに見上げて、両腕を白い首に絡ませて。

すぐ傍にある唇を合わせようと。


「って、えぇっ!」

・・・して、目が覚めた。

(もう少し、寝ぼけていてくれても、良かったのに・・・)



◇◆◇



「わ、わあぁ、ご、ごめん。何だか分からないけど、ごめん!」
焦って逃げ出そうとする悪魔を人の腕が留める。まだ無理しない方がいいですよ、と。

「え?泉の底で気を失ってた?・・・ああ、髪が絡まって取れないな〜とか思ったのは覚えてるんだけど。 そっか、俺、気を失って・・・お前が、引き上げてくれたんだ。」
状況を説明すると心底申し訳なさそうな声が返ってくる。

「いや、ホントに、ごめん。何か、迷惑かけて、ばっかりで・・・と、え?」
そこまで言って、何かに気付いたように唇に指を当てて、ほわり、と赤くなる。

(ああ、相変わらずホントになんて可愛らしい)

「あ、あの。聞きにくいんだけど、さ」
「はい?」
「も、しかして、俺・・・お前の。マグネタイト・・・喰ったり、した?」

こくりと肯くと、うわ、と困りきった顔になり。

「そ、れって、もしかして・・・、もしかしなくても、口、から?」

再度、こくりと肯くと。
悪魔の顔が更に赤くなり。

「うあぁ、ホントにゴメン!」と赤くなった顔を両手で隠す。

〜〜〜!いや、ホントにホントにゴメン。俺、マグネタイト採るの下手でさ。
自制利かない時とかは、つい口から・・・しちゃうんだけど。
うああ、お前、すっごく美味しそうな匂いさせてるから、ものすっごく気をつけてたのに〜!

真っ赤な顔を覆ったまま、じたじたと煩悶する悪魔は、謝り倒している対象が
(貴方こそ食べちゃいたいほど、可愛いですよ・・・)と見惚れていることなど、皆目気付いていない。
やがて、気にしないでください。以前にそういう仲魔も居ましたから、慣れています。と返すと。
「あ、そ、そう、なの?・・・えと、怒って、ない?」

勝手にキスはするわ、マグネタイトは吸うわ。俺、何か、夏に増えるっていう変質者みたいじゃん!
と、ひたすらに自分を責める悪魔はライドウの言葉に少し浮上する。

怒ってませんよ。むしろ、貴方さえ良ければ、もう少し採ってくれればいい、と微笑むと。
「・・・え。そ、それ、は。嬉しい・・・けど」
ホントに、いいの、と。戸惑った風で、覆った手の指を、ゆっくりと開き。
その隙間から、脅えたように伺い見る視線は、恋に惑う若者には、淫靡に過ぎる。

構いませんよ。だから、と。
己自身ですら気付くほどに、熱を帯びた擦れた声で、そう返したライドウが。
彼の両手首を掴んで、赤い顔を露にし、その瞳を覗き込むと。

「や、ダ、ダメだよ。やっぱり・・・悪いから」と、首を振る彼に。
では、これが、"お願い"、ということで、と、にっこりと返す。

「え、そ、そんな、俺がマグネタイトもらって、なんでそれがお礼に」と焦る悪魔に。

もう一度、"お願い"です、と、目を合わせて、念を押すように告げると。

暫しの後、困ったようにゆっくりと閉じた瞼を許しと取って。

ライドウは悪魔の冷たい唇に己の熱いそれをそっと合わせた。






◇◆◇







れは
冷たい。
冷たいのに。

食んで舌を絡めると
とろりと甘い蜜を垂らす。

極上の氷菓子のようだ、と。
不埒に過ぎる感想を抱きながら。
夢中になって奪いながら与えていると


ふるふる、と、拒むように頭を揺らされる。

不本意ながらも、唇を離すと、紋様の走る指がそっと口唇をなぞってくる。

・・・ありがとう。お前は、本当に、優しい、ね。
でも、これ以上は、辛くなるよ。・・・俺は、もう十分、だから。

承諾を示さないライドウを、どこか哀しそうに見つめて。

もう、帰った方がいい。と。

蝉の声に紛れて、彼は言った。




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ヨシツネ「お前から口移しでMagもらってた "命知らず(なかま)"なんか居たかぁ?」

ご主人様「・・・」(・・・察しろ、という、ものすっごく怖〜い視線)

ヨシツネ「あ、ああ。当の本人のことか。そういや、仲魔だったよなぁ。主客の認識はともかく」