奥様は混沌王(にゃんこ編) 04



――― あ。

威嚇のつもりだったはずの爪の先が、きれいな白い小指の先にかかる。
そのまま、見えないほどの肉片を削ぎとって、クンと爪はそれから離れ、やがて。
白い指の先に、プクリと浮かぶ、赤い滴。

――― どう、しよう。

でも、爪も上手く引っ込められないほどに幼い子猫を、その行動に駆り立てたのは。
自分を見つめたまま、悲しみへ落ちていく、暗い、闇い、黒い、瞳。




――― あぁ。

掻かれた指先から、赤い液がこぼれ出たことなど、ただの、ひとつの、事象。
痛いのは表面のそれではなく、身のうちにある、何か。
厭われて、いるのだ、と、その、思い知らされた事実が、体中を巡り、肉も骨も切り刻む。

――― いたい。

だが。野生の獣が忌避する行動しか、愛情表現として出せぬ、この不器用な男が驚いたのは。
どこか慌てたように、動いた、小さい子猫の、その。




◇◆◇



シャ!と、愛する子猫に思い切り威嚇され、おまけにアイアンクローまで掛けられて。
心の臓から、大量の、目に見えぬ血しぶきを噴き上げる男は、よろよろとソファへと座る。

『・・・そういえば、腹も空かせているだろう、からな』
たたき起こされた時間から、何も口にしていないのだから、子猫の身としては辛かろう。
だから、余計に不機嫌なのだ、そう気にするな、と、暗に慰める声にも、俯いたまま答えぬ後継に
溜息をつきかけた黒猫は、件の子猫が、トンと、ソファに跳び乗るのを見て、安堵した。



・・・ンニャ、と、小さな声が傍で、する。
え、と、ライドウが顔を上げ、視線を声の方向へ動かすと。
気遣うように頭を傾け、小さく、もう一度、ンニャ、と、それは鳴く。
思わず伸びた手に、一瞬ビクと身を縮みこませる仕草が。・・・可愛いのに、悲しくて。
ライドウは、その美しい毛並みに触れる寸前で、その動きを止めた。


ごめんね、と、言ってみた。傷つけて、ごめんね、と。
刀を振り回したり、銃で脅したり、追いかけてきたり、何だか、とっても怖い人、だけど。
本気で、ケガさせるつもりじゃなかった。あんな、悲しそうな顔、させるつもりじゃ。

だから、思わずソファに跳び乗って、謝ってみたのだけれど。
やっぱり、その人の手が伸びてくると、怖くて。思わず、体がすくんで。
目も開けてられなくて、ギュッと閉じて。


(・・・あれ?)

いつまでも触れてこない指に、こわごわと瞳を開くと。
そこには。

怯えたように、長い黒い睫毛を揺らす、美しい瞳。
形のいい、白いしなやかな指。その先端に、赤い、綺麗な丸い、玉。

(白雪姫)
黒くて白くて赤い、魔性のお姫様。
(ああ、ダメ。また・・・)
いつかどこかで味わった酩酊感に抗いきれず、子猫はその怖いお姫様に舌を伸ばした。





◇◆◇




(え?)
ざらり、と、己の先端が音を立て。その、初めての感覚に、男は硬直する。

(ええ?)
何度か、ざらり、と、小さい温かな何かでなぞられたそこは、やがて、かぷ、と甘く噛み付かれ。

(えええー!)
そのまま、ちゅう、と。これまたもどかしいほどの絶妙な力加減で、そっと、吸われて。

(ええええ〜〜っ!!)
とどめを刺すように、もみっもみっと、その小さな肉球でこれまた絶妙に押しもまれ始めて・・・。

生まれて初めて強要することなしに(←オイ)、最愛の奥様からその愛撫をいただいた幸せな男は。
やがて聞こえ始めた、「ゥみャィ、ゥみャィ ゥみャィ」という鳴き声に耳からも快感を注ぎ込まれ。

もう死んでもいいー!(しかもウマイウマイだなんてー!)と、頭の中で絶叫し。



・・・ああ。傷ついた”指”から、マグネタイトを吸っているのだな、と冷静に理解しつつも。
己の後継の脳内イメージがものすごい勢いで明後日の方向へ展開されているのに気付いた黒猫は。

この日一番深い深い溜息をついた。


next

back

マニクロその他top



ヌコ様の舌は絶妙なザラザラ感でございます!
子猫ちゃんはご飯を食べながら「うみゃいうみゃい」と威嚇を兼ねて鳴くのでございます!

超絶ご機嫌になると、激悪な前脚もみもみが開始されます!そして、ヌコ様最強伝説がここにw!!