最後の逢瀬の後。
限られた、残された時を。これまで以上に、僕は彼の傍から離れなかった。
言葉一つも受け取ってもらえないほどに。最後の一瞬を瞳すら合わせてもらえないほどに。
本心ではそれほどに、疎まれていることを改めて思い知らされて、でも、それでも。
誰一人、彼の身を傷つけることが無いように。誰一人、彼の身に触れることが無いように。
傍に。誰よりも、傍に。…誰一人、彼の心に入ることが無いように。
(せめて、自分がここに居られる間、だけでも)
誰かが揶揄った。人では無いと。僕のことを。嫉妬と羨望の混じった声で。
――― あれは、影よ、と。
触れ合わず、けれどけして離れず。我らが新しき王の傍に常に存在する、黒い生き物。
あれは、主の、人への哀しき執着が生んだ、黒き影。残された想いが模る虚像。
でなければ、あれほどに人が強くなれるはずがない、と。
(なれるものなら、と思った。彼の影になれれば二度と離れずに済む。疎まれずに済む)
混沌の王の黒き影、か、なかなかにセンスの良い称号ではないか。
ヤタガラスの使いへの土産に爪の垢を持って帰ってやろう、と、笑ったのはゴウトだった。
これは帝都に帰るのが楽しみなことだ、恐らくはほぼ全ての悪魔がお前に逆らおうとは思うまい。
二重に三重に釘をさす猫の声は、僕の心に一瞬起きた甘い想いを簡単に蹴散らした。
それほどに。混沌の王の黒き影、と敵悪魔どもが呼ばわるほど、あからさまに常に傍に居ても。
僕にはわかっていた。彼が僕の気持ちに気付くはずは無いと。
けれど。それでも。
他者からの好意には、悪魔のように鈍感な彼が、その想いに気づくことは無くとも。
誰よりも彼の傍で、誰よりも彼の息遣いを鼓動を感じながら、共に戦いたかった。
――― 僕にとって、それはカタチを変えた交接であったから。
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