月蝕 04









いつも、最後に、僕の視界を閉じたのは、貴方の優しさだったのか、それとも


(視覚情報さえ無ければ。他の誰かでも同じになると、思ったのか)









「あっけないもんだな」

戦闘開始からものの数分。愛しい悪魔が傲慢に批評する。
怨嗟の声を響かせながら崩れていくカグツチを。産まれなおすこと(あた)わなかった哀れな胎児を。

同感だと思った。本当に、あっけないと。
時間稼ぎにすらならないとは、と八つ当たりのような思いを苦々しく噛み締めた。

そして、それは、続く“依頼者”との闘いですら同じで。

『ふふ、見事だな。それでこそ混沌の王』
「つーかさ。手を抜きすぎなんじゃないの?閣下」
ふ。お前が強くなりすぎたのだ。
いつまでも遊んでいないで、とっととカグツチなぞ壊してしまえばよかったものを。

「それほどに別れがたかったか」
ち、と彼が苛立たしげに舌打ちをする様を、ただ僕は見ていた。その意味も分からずに。

「まあ、良い。愉快だ。これほどとは思わなかった」
「それは、どうも」
「愉しませてもらった褒美に」
お前の望みをひとつ叶えてやろう。

予想外の言葉だったのだろう。珍しく彼が動揺しているのが分かり、そして。

「その人間を、本当にお前の影にしてやろうか?」
続く魔王の言葉と、

「いらない」
彼の即答に動揺したのは、僕の方だった。




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