月蝕 05









もう一度、瞳を閉じる。もう一度、夢を見たい。貴方の夢を。









「吊り橋効果って言葉、知ってるか?」
突然の問いに、いいえ、と小さく首を振る僕に、貴方は優しく笑った。笑って解答を解説した。

「吊り橋の上のように、いつ落ちるか、いつ落ちて死ぬかって場所で出会った同士はさ」
ああ、俺とお前の場合、いつ殺すか、いつ殺されるかってシチュで出会ったけど。

ぴくりと揺れようとする肩を無理やりに止める。慣れた糾弾。もう今更だ。
おそらくは彼には僕を責めているつもりすら無いのだ。当然だ。それは単なる、事実の羅列。

「よく、勘違いするらしいぜ。その相手を好きになってしまった、ってな」
ドクリドクリと打つ、胸の鼓動が。相手への感情に起因するものでは無いのかって、勘違い。

しばらく、僕は、彼の言った言葉を溶けない飴玉のように口の中で転がす。

「ちが」
「違うと言い切れるか」
本当に?

放り込まれた、飴玉は、まだ溶けない。やはり溶けない。
ああ、冷たく味の無いそれはビー玉であったかと、思考は宙に浮かび。
彼は僕を最後まで拒絶する。

「言い切れないなら、お前はお前の世界へ帰れ」

――― 俺は、お前なんか、いらない。





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