月蝕 10









思い出す。貴方の瞳。月蝕のような美しい魔の赤。

それはただ目に見えぬだけ。いつも傍に居る。僕の傍に。僕の愛しい月。

貴方に想われる自分が愛しい。貴方が愛する“人”というカタチが愛しい。

生きていく、何もかもが、愛おしい。それは貴方へ続く経絡。









「人は愚かだが、愛しいものだな。ゴウト」
『このひよっこの若輩が。創造神のような言を吐くものではないわ』

苦言を呈しながらも黒猫の緑の瞳は優しく、美しい後継を見つめる。

『まだコトワリは定まらぬか』
「もどかしいのは、僕こそが、だが」

再び相見えるときの彼は。
無敵之仲魔か、最強之刺客か、永遠之伴侶か。

いずれにせよ、中途半端なコトワリでは三行半を叩きつけられるのは目に見えているからな。
逢えない時間が愛を育むと言うことだし、嫌になるほど育んでおこうと。

『開き直りおったか』
「悟りを開いたと言ってくれ」
まあ見ておいてくれ。ゴウト。どのコトワリを啓いても。結果は同じだ。

「同じ?」
「ああ。次に出会えたそのときは」
もう二度と離さない。今度こそ。…たとえそれが、(むくろ)でも。

少しの沈黙の後に。
我は少し人修羅が気の毒になってきたぞ、と溜息を吐く黒猫に。
奇遇だな。僕もだ、と。爽やかに言い切って。

史上最強の悪魔召喚師はにこりと笑んだ。





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