椿姫 02


「おう。鳴海んちのライドウか。どうした」
目ざとくライドウを見つけた佐竹に、事情を話してみる。

「そうか。長谷川さん、鳴海にまで依頼したか」
・・・よほど困っているようだな、と佐竹が溜息をつく。

しかし、鳴海。特殊なの専門、とかいう決まり文句で断らなかったのか、と怪訝そうに首をひねる彼を、ライドウとゴウトは若干疲れた態で見る。

その後、佐竹に顔つなぎをしてもらい、見世物小屋の人間に詳しい話を聞くことができた。

「いやー困ってるんですよ。ほんとに」
毎日毎日毎日毎日、名前を教えろ、住んでいるところを教えろ、と。
ほとほと困り果てた態で、斉藤、という名の小屋の男は深い深い溜息をつく。

「で、その相手の方、とは」
単刀直入に問うライドウに、斉藤は焦ったように言葉を返す。

「あ、ああ。ええと。あの部外者には言えない事情がありまして、ですね」
「・・・都合の悪いことを口外したりはしない」

何しろ"見世物小屋"だ。本物の蛇を身体に巻きつけたり、蛇の首を噛み千切ったりする蛇女だの、 火傷の恐怖と背中合わせに火を吹く人間だの。その他、非常に表現に困る「体を張った」 芸を見せる所だ。言いづらいことは山のようにあるに違いない。

(ここは佐竹の管理下にあるからな。・・・比較的 " 真っ当なインチキ "レベルの見世物しか無いが。 他では・・・)
人の現実世界の残酷さを長い間見てきた黒猫は、ポンと尻尾を床に叩きつける。
できれば、まだライドウには「そちらの方面」は知りすぎてほしくはないものだ、と。

「話してやれや。斉藤。こいつぁ、信頼がおける奴じゃからの」
「さ、佐竹さんが、そこまでおっしゃるのでしたら」

こいつの口が堅ぇのは、見るからに分かるじゃろうが、と豪快に笑われて、それもそうですね、
と、余りにも、すんなりと納得されることに、どこか納得のいかないライドウである。

そして、そんなこんなで聞き出せた「女性の名」は。


「椿・・・さん?」

件の坊ちゃんが入れあげている女性の名は、その美しい花と同じだと言う。

「いえ、本当の名前は僕たちも知らないんですが。ただ」
いつも、白い椿を持っているので、便宜上、呼び名としてそう、と、斉藤は言う。

「ウチの元締めの知り合い、らしいんですが、数十年に一度、帝都に来るので、特別出演として」
「・・・数十年に一度?」
そんな高齢のご婦人に、あの二十歳そこそこの男が?と、首を捻ったライドウに。

「あ、いや。もちろん、以前来た"椿さん"の子供さんだと思うんですが」
見た目では、十六歳ぐらい、だと思いますよ。と斉藤は説明する。

以前に"椿さん"が来られたとき。ああ、僕、まだ小さかったんですけどね、よく覚えてまして。
いやぁ。本当にお母さんとそっくりで。お綺麗で・・・。
ウチの元締めはもちろん、前の時に小屋で見たことのある常連さんも感動するほどでして。
――― やはり "本物" だなぁ、と。

・・・ということは、つまり「不老の者」という設定か、とライドウとゴウトは思う。


「では・・・椿さん、が、やっている出し物の名は?」
「ああ、あれですよ。ほら有名な―――

キャアアッ!

小屋の男が"椿の役の名"を言いかけた瞬間、つんざくような女の悲鳴が聞こえた。


next→

←back

ライドウ部屋top




見世物小屋、椿、ときて「少女椿」路線をご期待された方。
すみません!それはさすがに使えませんでしたぁっ!!・・・いやでも大好きですが。