美徳、というものは秘していても、いや、秘するほど花となって、衆目の目に留まるものだ。
「そうなんだよ〜。多勢に無勢だし、どう見てもカタギじゃない連中だし。ああ、もうあの男、殺されるぞって、思ったら、ライドウちゃんがね!!」
帝都を護る者としての自負を隠し持つ若者は、そのさりげない仕草一つにすら、知らず護られている者達が彼への好意を増す要因が含まれていることに気付いていない。
「カッコ良かったわよ〜!颯爽と、割って入ってきて、その男を庇ったかと思ったら、襲ってた奴らを、叩きのめして!!」
見るものが見れば、誰もがどこかで分かるのだ。この無口で不器用な、それでいてさりげない微笑が強烈な攻撃力を誇るこの若者が、自分達を護ってくれている、ということが。
「でも、助けてもらったくせに、あの男。酷かったわよねぇ!」
しかし。その美徳が通用しない者も、世の中には居る。少し前の、俺、みたいに。
「そうそう。余計なことしやがって、って。ライドウちゃんの顔に」
――― 唾、か。
そのときの、彼の気持ちを思うと、心が痛い。
(どうせ、顔には何も出さなかったに違いない。アイツはそういう奴だ)
・・・怒れば、いいのに。助けてもらったくせに、何だそれは!って。・・・俺なら、そうする。
でも、アイツは。怒る、どころか、余計なことをしてしまったとか、本気で悔やんでいやがるんだ。
分かるさ。・・・だって、その男がやったことは、少し前の俺がしてたことと、同じ、だから。
今は久しぶりに学校で勉学に勤しんでいる彼を思いながら
珍しく探偵らしい仕事―― 情報収集を終えた男は、また溜息を一つ。
自分は護る者だから。それが己の存在価値だから。
あの年で、そんな重い物を背負って。己の負った傷にも頓着、しないで。
俺は。
俺は、ちょっと怖いよ。ライドウ。
お前が、じゃなくて。お前が進む道が、さ。
そう、彼のことを思いながら。
銀楼閣への道を辿る鳴海の鼻腔に、ふわ、と、清廉な香が届く。
ああ、そういえば、もうそんな季節か、と何の気なしに思った探偵は。
今の状況に当て嵌まりすぎる、怪談をふと、思い出して、その背筋を冷やした。