CURSE ―呪い― 〜ウリエル編〜 5


「ち、あき」

首を押さえていた手が動き、ふわりとウリエルの頬を覆う。
ふ、と詰めていた息を吐いて、目を開けた天使はどこか虚ろな主の瞳が、自分のそれを覗き込んでいるのに、気づき。そして。
そこ(・・)に映りこむ深い闇に、震えた。


――― その悲しい哀しい瞳は、己を捕らえて離さぬ、あの時の。


ごめん。ちあき。
おれ、なんにも、して、やれなかった。
おまえ、わがままで、きがつよくって。よく、けんかもして、おれ、なかされた、けど。
ほんとうは、やさしくて、・・・。



――― それは幼馴染であった、ヨスガの主への、言葉。


ころんで、ひざをすりむいた、おれを、おこりながらも、てを、つないで、くれて。
こわい、いぬに、おいかけられた、とき、だって。
いっしょうけんめい。
へいきな、ふりして。



――― どこか舌足らずだった口調が、ゆっくりと普段のそれに変わっていく。


こんな、姿に なった 俺を 見ても、驚いたのを、必死で、隠して くれて。
・・・俺が、傷つかない、ように。
そんな。強い。本当は、とても 優しい。
なのに。その、優しい、お前が。・・・あんな。



――― 彷徨う瞳は悲しみの色を濃縮する。おそらくは、あの、惨劇を、網膜に映して。


どれだけ、傷ついたんだろう。
お前が、その強さを、得るために。

・・・どれだけ、追い詰められたんだろう。
お前が、そのコトワリを、つかむまでに。

それが、分かっているのに。俺は。
俺は、いつまでも、迷って、ばかりで。

先生も、勇も、フトミミさんも、聖も。
氷川、も。
誰の手も、振り払うことが、できなくて。
どの想いも、捨てることが、でき、なくて。




―――泣いて、おられるのだ。と、ウリエルは思う。
その涙すら流せぬ、強靭な身体の奥で、心を切り裂いて、血の涙を流して、おられる。

それは、少し前の自分なら、見向きもせずに切り捨てたような、「弱さ」。
・・・けれど。

「神の光」と呼ばれる天使は、思い出す。

光は全ての色を内包するからこそ、白く、強く、輝くのではなかったかと。


弱者を切り捨てて生きれば、強く生きるのは容易い。
他者を否定し続ければ、自分の道を迷うことも無い。

それは他のコトワリを持つ者たちに共通する・・・強さ?
己のみを正当化し、利用できるものは利用して、欲しいものを手に入れるのは「強さ」なのか?


・・・では、それらを全て抱えたまま、惑い、血を流しながらも、先に進もうとされる、この方は。

きっと。誰よりも。


――― 哀しい、ほどに。


強い。



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