カグツチ塔 402階
「フトミミさん!」
話が、あるんだ、と、君が私を呼ぶ。
どこか硬い表情、無理に温度を下げた声、珍しく視線を逸らしたままの君が続ける言葉を。
――― 私は、もう、知っている。
「・・・ここで、別れよう」
仲魔から、外れてくれないか、と、君は言う。辛そうな声で。
ああ。この光景を、何度も見たことか、と、私は思う。
「・・・理由を、尋ねてもいいだろうか、人修羅」
そして、私もまた、この台詞を、何度も言った。夢見の中で。
「り、ゆう?」
そう復唱して、君が困ったように言葉を詰まらせるのも、・・・何度も。
◇◆◇
「あ、新しい仲魔を造りたくて・・・ストックを開けたいんだ。・・・だから」
下手な嘘。君は私の前だけでは、嘘が下手だ。いつも。
その事実に気付いたとき、どれだけ私が嬉しく感じたか、きっと君は知らない。
「私に嘘は通じない。人修羅」
「・・・っ」
だから、本当のことを言って、ほしい。
「私が、疎ましくなったのだろうか?」
「ちがっ!」
意地悪な質問と分かっていて、それを問う己は何と愚かな。
けれど、そうやって、必死に否定してくれる君を見れるこの、歪な喜びは、どうしたことか。
「ならば、何故?」
「・・・」
暫くの沈黙の後に返る、何度も聞いた理由。
優しい、残酷な、理由。
「マネカタの、誰かが、さ。言ってたんだ」
ここってなんか街っぽくて、アサクサを思い出すね・・・って。
「・・・」
沈黙した私に乗じるように重ねられる、言い訳。
「俺も、そう、思った、んだ」
・・・俺は、うっかり、貴方を。貴方の魂を鈴の音で覚ましてしまった、けど。
せっかく安らかに眠っていた、貴方を、俺のエゴだけで戦いの日々に巻き込んでしまった、けど。
ここなら。・・・プライドの高い悪魔ばかりで、弱いマネカタなんか襲ったりしないこの、場所なら。
アサクサみたいに貴方を慕うマネカタがたくさん居るここなら。貴方を置いていける。・・・安心して。
だから。
「後は、俺が、やるから」
全部のコトワリを否定して、皆が生きていく道を探して、みるから。・・・だから。ここで。
「だから、私をここで捨てる、と言うのか?人修羅」
「捨・・・てる?」
「そうだろう?」
ふ。所詮は土塊の身。君が玉響の美しき音色で魂をこめてくれただけの、人形。
主人に飽きられれば、捨てられても、仕方が無い。か。
「ち、が、違う!俺、は、俺はフトミミさんが、大事だから、・・・だからっ!」
もう戦ったりしないで、ここで、前みたいに皆と平和に過ごしてくれればって!
必死で言い募る、愛しい君を見ながら、いつかの女の言葉を思い出す。
確か、こう、言っていたか。
「思い上がった泥人形・・・・・・。生まれてきた意味を取り違えて・・・・・・」と。